「社内にスマイルが足りませんね。もっと笑顔があってもいいのではないですか」---。

 2008年春、山武の小野木聖二代表取締役社長は産業医からこう指摘されてショックを受けた。それを受けて2008年5月、人事部門担当の鷲安由樹執行役員常務は、「もっと健康な職場を作ろう。『5S+スマイル』活動を始める」と毎年恒例の幹部合宿で宣言した。5Sは整理・整頓・清掃・清潔・しつけの略である。

 2年がたった今、山武では工場もオフィスも5S+スマイルが行き届いた。東京・丸の内にある本社では、机にパソコン以外は何も載っていない。どのフロアも奥まで見通せて、すっきりと気持ちがいい。社内の雰囲気も良くなった。スマイルを浮かべた社員が職場を行き交っている。

笑顔の朝礼が自主的に広まる

毎月実施している「スマイルパーティー」。小野木社長(右の男性)も参加して社員と談笑する
毎月実施している「スマイルパーティー」。小野木社長(右の男性)も参加して社員と談笑する
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 鷲常務の「スマイルを増やそう」との呼びかけには、もちろん反対は無かった。笑顔を増やそうという活動に反対する人などいるはずがない。

 ただし、スマイルを増やそうと言われても、何をすればいいかは分からない。そこでまず、朝のあいさつから始めようと鷲常務らは呼びかけた。「しかめっ面であいさつしたい人はいない」(鷲常務)からだ。笑顔がよく見えるように、始業前に節電のため照明を落とすことはやめた。

 さらに課長クラスの職場長には「モーニングミーティング(朝礼)」を開くよう奨励した。スマイル活動の趣旨を外れないよう、職場長は部下の体調をそれとなく確認しながら、口下手な人にも「今日会社に来るまでのことを話してみて」などと話題を振った。あくまでも、社員がお互いの笑顔を見ながら話ができるようになるのが目的だ。

 朝礼は強制せず、職場長の自主性を尊重した。オフィスの5Sが進んで見晴らしが良くなると、朝礼をする職場としない職場がはっきり分かるようになってきた。実施している職場からは朝から笑い声が聞こえてくる日もある。1年もすると「自然に朝礼をする職場が増えた」(鷲常務)。

 さらに2009年10月からは、社員向けの「スマイルパーティー」を毎月開いている。これは課長以上役員未満の管理職がお金を出し合って運営する社内の勉強会組織「LD(リーダーシップデベロップメント)会」が主催するものだ。社員全員に参加を呼びかけている。仕事の話はしない。

 オフィス脇のリフレッシュコーナーにケータリングの食事や飲み物を持ち込み、職場の垣根を越えて談笑する。小野木社長も毎回参加して交流を楽しむ。スマイルパーティーの参加者は回を追うごとに増えている。