サービス業であるホテルの経営は、社員の意識の高さや行動が顧客満足度に直結する。ビジネスホテルを展開するスーパーホテル(大阪市)は「自律型感動人間」の育成を掲げてきた。同社は日本経営品質賞をはじめとした数々の受賞歴を持つ。

 北原秀造取締役は「社員が会社を辞める理由の多くは、上司に自分の働きを評価されないこと。だから上司と部下がお互いの考え方を理解できるように話し込みを徹底している。部下の働きやすさは上司との対話量で決まる」と話す。

 上司も部下も対話を続けるには、話すネタが必要だ。そこで山本梁介会長が2005年から「ランクアップノート」という自己管理帳を導入。全社員に配布し、毎日記入してもらっている。山本会長は事あるごとに書き込みを促してきた。

管理職層には強制で記入させる

 ノートが全社員に定着するまでには2~3年かかったという。特に当初は上司のほうが面倒くさがった。北原取締役は「上司がやらないことを部下はやらない」と訴え、管理職には書くことを強制した。何カ月分もさかのぼって書かせた人もいたほどだ。部下の働きやすさを確保するため、上司の行動から変えたところが興味深い。

社員が毎日書く「ランクアップノート」。上司が毎週読み、その内容で対話する
社員が毎日書く「ランクアップノート」。上司が毎週読み、その内容で対話する
[画像のクリックで拡大表示]

 ノートに記す内容は、上司からの指示やその日の業務内容、結果、反省だ。それを読んだ上司がコメントを添えたり、会話のネタとして頭に入れておいたりする。現場によっては上司あてにランクアップノートを置いて帰れる専用の棚まで用意し、交換日記のようにやり取りしている。

 同じ会社で働いていても、人はそれぞれ考えが違う。「その事実をノートのやり取りを通じて知ってもらう」(北原取締役)。例えば、上司が「業務の生産性を上げよう」といっても、上司が解決してほしい課題と、部下が実際に改善した内容にズレがあると評価にはつながりにくい。それが部下の不満になり、辞めるきっかけになることもある。「上司の評価と部下の行動の方向性を一致させられれば、結果的に離職率は下がる」(同)。

 やり取りがうまくいけば、従業員満足度が上がるはず。そう考えるスーパーホテルは、対話レベルを評価するため満足度の推移をモニタリングしている。2006年度に55.8%だった総合満足度は上昇を続け、2009年度に96.0%まで高まった。

 介護施設も離職率の高さが悩みの種だが、同社はグループのシティー・エステート(大阪市)が運営する老人ホーム「スーパーコート」にもランクアップノートを導入している。あるスーパーコートは2007年から、ランクアップノートを使って上司と部下の対話を深めてきた。すると2010年上期は2007年比で離職率が3分の1以下になった。