「IFRSを適用する」と一口に言っても、その実態は国ごとに異なる。日本の上場企業がIFRSを適用する際に利用するのは、金融庁が定めた「指定国際会計基準」である。現状では、IASB(国際会計基準審議会)が策定したIFRSと指定国際会計基準を区別して考える必要はほとんどない。

 5月10日、HOYAはIFRS(国際会計基準)に基づいた2011年3月期の連結財務諸表を公開した。金融庁は10年3月期以降の決算から、一定の条件を満たした日本企業に対してIFRSに基づいた連結財務諸表の作成、すなわち任意(早期)適用を認めている。10年3月期に日本電波工業が任意適用を始めており、HOYAは日本企業で2社目となる。

 HOYAの江間賢二CFO(最高財務責任者)は5月10日に開催したアナリスト向け説明会で「IFRSの任意適用に当たり、金融庁からの通達により指定国際会計基準を採用した」と説明した。

 ここでいう指定国際会計基準とは、IFRSの策定主体であるIASB(国際会計基準審議会)が公表した会計基準のIFRSと厳密には異なる。日本企業がIFRSの任意適用、あるいはIFRSそのものを日本の会計基準として採用する強制適用を実施する際は、指定国際会計基準を利用する。この点に注意が必要だ。

金融庁が定めたIFRSを適用

図●日本企業が利用する「指定国際会計基準」の概要
図●日本企業が利用する「指定国際会計基準」の概要
IASBが公表したIAS、IFRSから金融庁が内閣府令で指定した会計基準を利用する
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 指定国際会計基準は、IFRSのなかで金融庁が認めたものを指す()。「IASBが公表したIFRSのうち、公正かつ適正な手続きの下に作成および公表が行われたものと認められ、公正妥当な企業会計の基準として認められることが見込まれるもの」と定義している。

 「IASBが公表したIFRS」には、会計基準である「IFRS」とIFRSの前身にあたる「IAS」のほか、会計基準のガイドラインである解釈指針の「SIC」と「IFRIC」が含まれる。このなかで上記の定義に合致したものを、金融庁は官報などを通じて指定国際会計基準として公表する。

 現状では、IFRSを任意適用する日本企業が「これはIASBが公表したIFRSか、指定国際会計基準か」を区別して考える必要はほとんどない。11年3月期決算のタイミングでは、金融庁はIASBが公表したすべてのIFRSを指定国際会計基準としているからだ。

 ただ、IASBがIFRSを公表するタイミングと、金融庁が指定国際会計基準として公表するタイミングは異なっている。IASBは5月12日に、新たにIFRSの10~13号を公表した。金融庁は5月30日時点で、この四つの基準を指定国際会計基準としては公表していない。IASBが定めた適用時期までに金融庁が指定国際会計基準とすれば、IASBのIFRSとの間に違いは生じない。

 問題は今後、金融庁がIASBのIFRSのいずれかを指定国際会計基準としなかった場合だ。日本の企業はIFRSのなかで、いくつかの基準を採用しないことになる。この状態をカーブアウトと呼ぶ。