2011年6月の金融担当大臣談話を皮切りに、突然始まった「IFRS適用延期」の議論。なぜこのタイミングなのか。謎を解くカギの一つが、製造業を中心とした21社と日本商工会議所が連名で金融相に提出した「我が国のIFRS対応に関する要望(要望書)」である。

写真●企業会計審議会総会で挨拶する自見庄三郎金融担当大臣
写真●企業会計審議会総会で挨拶する自見庄三郎金融担当大臣

 「強制適用を決めた場合、5~7年の準備期間を設定する」。自見金融相(写真)の発言により、IFRS(国際会計基準)が強制適用になった場合の適用時期は最短で2015年3月期から17年3月期に延びる公算が大きくなった。

 この発言を受けて、6月30日に開催された企業会計審議会総会と下部組織である企画調整部会との合同会議は異例ずくめだった。IFRSの強制適用の方針を決めた「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」を検討したのが企画調整部会だ。

 自見金融相は合同会議の冒頭、「強制適用が決まった場合は、準備期間を十分にとる」といった内容を繰り返し説明。2時間にわたる会議の最後まで参加した。

 続いて企画調整部会に参加した臨時委員4人が、会長からの指名を受けて順に説明した。全体の議論に先駆けて臨時委員に説明の機会を与えるのは珍しい。

 臨時委員の発言の終了後、通常の議論に移ったが、各委員が意見を述べるにとどまり、強制適用の方向性どころか、次回の審議会の論点も明らかにならなかった。

背景に企業財務委員会の存在

 なぜ今、IFRS適用延期の議論が始まったのか。古くからの企業会計審議会の委員は「IFRS適用への慎重派が、1年以上前から準備を重ねた結果だ」と証言する。

 謎を解くカギの一つが、製造業を中心とした21社と日本商工会議所が連名で自見金融相に5月末に提出した「我が国のIFRS対応に関する要望(要望書)」である。要望書は強制適用について、海外の情勢を踏まえて早急に議論を始めることや、結論を出すのに時間がかかる場合は十分な準備期間や猶予措置を設けることを要求している。

 合同会議では、新任の企画調整部会臨時委員である三菱電機の佐藤行弘常任顧問が代表して、要望書について説明。「今年に入り、このままIFRSの強制適用が進んでいいのかという不安の声が上がり、要望書につながった」とした。

 要望書が生まれた背景には、経済産業省の企業財務委員会の存在がある。企業のCFO(最高財務責任者)で構成する同委員会は長らく休会していたが、IFRS適用を議論するために09年11月に再開。10年4月に中間報告「会計基準の国際的調和を踏まえた我が国経済および企業の持続的な成長に向けた会計・開示制度のあり方について」を発表した。