米ヒューレット・パッカード(HP)が「総合IT企業」の看板を下ろす方針を打ち出した。

写真●米HPのレオ・アポテカーCEO兼社長
写真●米HPのレオ・アポテカーCEO兼社長
(写真:陶山 勉)

 利益率が低いPC事業の分離などを検討。高収益な企業向けソフトウエア、ITサービス事業に注力する。個人から大企業までを顧客に抱え、パソコンやプリンター、サーバー、ネットワーク機器などのハードウエア、ソフトにITサービスと幅広い事業を手掛けてきたHP。レオ・アポテカーCEO(最高経営責任者)兼社長は、その戦略を大胆に転換する(写真)。

 HPは2011年8月18日、三つの施策を一挙に発表した。一つは業務ソフト大手の英オートノミーを102億ドル(約7800億円)で買収する交渉を進めていること。二つめが、2010年に米パーム買収を通じて得たスマートフォン向けOS「webOS」および同OSを搭載した端末の開発からの撤退。三つめがPC事業「Personal Systems Group」の分離検討だ。

 「三つの発表は合わせて解釈する必要がある」。ガートナージャパンの蒔田佳苗主席アナリストは、こう述べる。「いずれも、法人向けのITサービス企業へと急進的に業態転換を図るための強い意思表明という点で、密接につながっている」(同)からだ。

 HPの戦略について、IDC Japanの片山雅弘グループマネージャーは「基本的には米IBMの戦略と同じだ」と指摘する。IBMはHPに先駆けPCなどの事業を売却し、サービス事業やソフト事業に経営資源をシフトしてきた。HPも同様に、積極的な買収でソフトの品ぞろえを増やしていくとみられる。

 PC事業はHPの全売上高の3割強を占める主力事業だ。ただし売上高営業利益率は5%台。同利益率が10%以上の他の事業に比べ見劣りする。PCの世界シェアで首位とはいえ、利益率の拡大は見込みにくい。先進国ではPC市場が飽和し、新興国市場では価格競争が厳しいからだ。

 スマートフォンやiPadといった多機能端末の台頭が、PC市場の縮小に追い討ちをかけている。そうしたなか、HPはこれら多機能端末の分野で出遅れていた。これらの事情が今回の発表につながったと言える。

 今後の注目はPC事業の行方だ。HPは12~18カ月以内に結論を出すとしているが、分離の形態などは不透明だ。

 ただ、当然のごとく、売却の観測は早くも流れている。IDC Japanの片山グループマネージャーは、売却先の大本命として韓国のサムスン電子を挙げる。

 サムスンは個人向けのPC事業を手がけている。「HPのPC事業を買収すれば、欧米などでシェアを拡大できる」(同)。

 片山グループマネージャーはサムスンの対抗として、中国のレノボを挙げる。ガートナージャパンの蒔田主席アナリストも、「サムスンとレノボが買収に乗り出す可能性がある」とみる。