2008年4月にモスクワに事務所を設置してから早3年が過ぎた。

 モスクワに来た当初は、ロシア経済はバブルの絶頂期だった。なんと物価の高い所だと思っていたら、その夏には北京五輪の開幕と同時にグルジア紛争が勃発。秋にはリーマンショックへと、まるでジェットコースターのように景気は急落、バブルが弾けた。

 正直、一時はどうなることかと心配したが、なんともロシアは懐が深い。他のBRICs諸国に比べるとやや遅ればせながらも、経済はリーマンショック以前の水準に戻り、最近は資源高を背景に再び成長期に入って来ている。

スコルコボにグローバル企業が続々集結

 今当地で一番頻繁に耳にするロシア語はメドベージェフ大統領の近代化政策のキーワードとして掲げられた「イノバーチア」、つまりイノベーションである。その象徴が、モスクワ郊外のスコルコボにおけるイノベーションシティーの創設、通称“ロシア版シリコンバレー”である。

 ロシア版シリコンバレー構想の中身は、「国内外から3万~4万人の優秀な頭脳を集め、優先5分野に関する先端的研究開発とその商業化を目的とした“未来都市イノベーションセンター”を設立する」というもの。この構想実現のための連邦予算は、2011年から2014年の5年間で855億ルーブル(約2527億円)にも上る。

 大統領自らが外資誘致のトップセールスを行っているほか、センターのための財団スコルコボ基金が設立されている。こちらの基金は、投資会社「レノヴァ」のベクセルベルグ総裁と米インテルのバレット元最高経営責任者が共同理事長を務め、評議会には、ルクオイル、ロスナノといったロシアの大企業、フィンランドのノキア、独シーメンス、インドのタタ、米シスコ、米グーグル、米IBMといったグローバル企業の幹部が参加している。各社はスコルコボにR&Dセンターの設置や投資のコミットをしている。

 資源依存経済から脱資源への経済構造の転換は、長年にわたり果たせぬロシア最大の課題だ。スコルコボでの大統領の挑戦は課題解決への試金石であり、その成否はロシアの将来を左右する。現在のところ、アジアからの参加企業が見当たらない点が残念だ。

 最後にとっておきの情報をお届けしたい。このスコルコボには、大統領肝いりのロシア最高峰のビジネススクールが隣接している。欧米から一流の教授を招いており、建物も超近代的。このビジネススクールが日本人向けに奨学金を用意して募集を行っている(SKOLKOVO opportunities for Japanese students)。東日本大震災支援として、授業料無料での募集も若干名あると聞く。日本の若者にぜひチャレンジしてもらいたい。

大田 良浩(おおた よしひろ)
NTTコミュニケーションズロシア社長兼モスクワ駐在事務所長。米国大学院で、ソ連・ロシア研究を専攻。ロシアとの長年のビジネス経験により、政治・経済方面にも人脈を拡大。ロシアの短い夏はゴルフに励み、冬は屋内ながらテニスを楽しむ。