一流大卒をあえて採用せず、オフショア開発技術者には日本語の会話力を求めない。新規顧客や新規開発案件には見向きもせず、ひたすらアプリケーション保守業務をこなす――。

 北京に本社を構える中訊軟件集団(サイノコム・ソフトウェア・グループ)は、中国の大手ITベンダーの中でも、少し変わった戦略を持つ。サイノコムは、野村総合研究所と大和総研グループから証券システムなどの保守を請け負うオフショア専業ベンダーだ。従業員数は、中訊グループ全体で3000人規模を誇る。

あえて他のベンダーの逆張りを狙い人材を確保

写真●中訊軟件集団(サイノコム・ソフトウェア・グループ)の王緒兵総裁
写真●中訊軟件集団(サイノコム・ソフトウェア・グループ)の王緒兵総裁

 多くの中国ベンダーは一流大卒の新人を奪い合って採用し、技術者の日本語能力を鍛える。保守よりも、最新技術を駆使したアプリケーションの新規開発を好んで受注する。サイノコムは、これら中国ベンダーとは正反対である。

 冒頭のような戦略を貫く理由について、サイノコムの王緒兵総裁(写真)は「オフショア開発を手掛けるITベンダーの理想を追求した結果だ」と述べ、次のように続ける。

 「オフショア開発事業で成功するには、特定の顧客から信頼を勝ち取り、なるべく多くの仕事を継続的に発注してもらうことが欠かせない。むやみに顧客を増やすよりも、特定の顧客からたくさん仕事を受ける方が、我々にとってもメリットが大きい。業務知識がたまるし、仕事のやり方にも慣れるからだ」。

 さらに、最も安定的な受注を見込めるのは、アプリケーションの保守だという。「新規案件は顧客の都合で受注工数が大きく変動する」(王総裁)。

 中国人は新しいもの好きだという話を聞く。保守ばかり請け負っていたら、技術者が「もっとおもしろい仕事がしたい」と辞めていってしまうのではないか。記者がこう聞くと、王総裁は待ってましたとばかりに「だから一流大卒は採用しない」と答える。

 「一流大卒は引く手あまた。辞めてもすぐに職が見つかる。ところが二流大卒となると、そうはいかない。一流大卒は、転職を繰り返して自らの価値を高めたいと考える人が多いが、二流大卒はそうでもない」。

 中国では、IT業界の就職先としての人気は高い。そのため、「二流大卒でも十分に優秀な人材を獲得できる」(王総裁)。

 日本語の会話力を求めないのも、人件費を抑えるためだ。「ソフト開発ができて日本語が話せる人は、これまた引く手あまた。そもそもブリッジSEを除けば、中国で働く技術者が日本語を話せる必要はない」。もちろん日本語を読む力は必要であり、そこは社内研修などで訓練させている。

将来的にはより上流への進出を目指す

 こうした取り組みによってサイノコムが日本企業から信頼を獲得したことを象徴する動きがある。この3月、サイノコムと大和総研グループの大和総研ビジネス・イノベーションが合弁で新会社「訊和創新科技(北京)」を設立したことだ。合弁会社は、大和総研グループから請け負った保守案件を800人体制でこなす。

 大和総研グループから訊和創新科技の総裁に就いた中村明氏は、合弁設立のメリットを次のように説明する。「サイノコムは大和総研グループ向けの営業活動が不要になり、しかも固定的な受注が見込める。大和総研は保守要員を囲い込める」。

 そんなサイノコムにとっても、賃金上昇は悩みの種だ。王総裁は「保守を通じて顧客業務の理解を深め、少しずつ上流の仕事にシフトしたい。同時にシステム開発の力を磨き、将来的には中国国内向けの事業に進出していきたい」と話す。