表●中国の大手ITベンダーにおける日系ベンダーとの協業の動き
表●中国の大手ITベンダーにおける日系ベンダーとの協業の動き
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 中国の大手ベンダーが、日本のITベンダーと協業する動きが続いている()。大連に大規模な開発拠点を構える東軟集団(Neusoft)は7月に東芝ソリューションと合弁会社を設立した。NeusoftはNECとも、5月に合弁会社を設けている。北京に本社を構える中訊軟件集団(サイノコム・ソフトウェア・グループ)は3月、大和総研ビジネス・イノベーションと合弁会社を新設した。

 合弁設立の表向きの目的は、中国市場におけるシステム開発事業の強化である。日中連合で成長市場を攻略しようという構図だ。だがその裏には、もう一つの狙いが込められている。人件費の安さを生かして実装など下流工程を請け負う「オフショア開発」のビジネスモデルからの脱却だ。

 「北京では、システム開発技術者の平均賃金はこの15年間で5倍近くに膨らんだ。にもかかわらず、日本企業からの受注単価は変わっていない」。サイノコムの王緒兵総裁は、こう打ち明ける。

 日本向けITサービス産業の集積地である大連でも、労働者全般の平均賃金は2001年からの10年間で3倍以上に増えている。だが、受注単価はやはり多くの企業が横ばいだ。「先進国との人件費の差を生かしたオフショア開発のビジネスモデルは、もってあと数年」。Neusoftの劉積仁会長兼CEO(最高経営責任者)は危機感をあらわにする。

 合弁設立を通じて、中国ベンダーは「付加価値のあるサービスを提供できる力を磨く」(サイノコムの王総裁)。要件定義やシステム設計といった上流工程をこなす力、顧客の課題分析力、解決策(ソリューション)の提案力などを、日本のベンダーから習得する考えだ。

 日本の中堅・中小ベンダーを買収して、自社に足りないスキルを補おうと目論む中国ベンダーもある。例えば海輝軟件(国際)集団(ハイソフト)はグループ会社を通じて、日本で保険関連のシステム開発を手掛ける「保険システム研究所」を買収済みだ。

 中国ベンダーが目指す姿は、インドの大手ベンダーである。先進国のベンダーの下請けに甘んじるのでなく、ユーザー企業から仕事を直接請け負うスタイルだ。当面は中国や日本の市場をターゲットとするが、将来は米国や欧州などへの本格的な進出を見据える。

 中国ベンダーの実力向上は、日本のユーザー企業にとっては好ましいことである。委託先の選択肢が広がるからだ。一方、ある日本企業のCIO(最高情報責任者)は「仕様書すらきちんと書けない企業は、中国ベンダーに仕事を引き受けてもらえなくなる」と警鐘を鳴らす。