先日、トルコ共和国へイノベーション人材の養成に関する学術交流と日土親善友好の旅をしてきた。ユーラシア大陸を挟んで東の果ての日本から見ると、トルコはアジアの西の果てだ。世界有数の親日国トルコだが、日本でのプレゼンスは不思議と低い。そこで今回はトルコからのレポートとしたい。

東京農工大学大学院産業技術専攻教授
松下博宣

 トルコの人口は7500万人。OECD(経済協力開発機構)の統計によれば、国民1人当たりのGDP(国内総生産)は約1万4000ドル(2008年)だ。日本の1人当たりGDPがおよそ3万4000ドル(同)なので、トルコのそれは日本の半分以下となる。

 世界経済でのトルコのプレゼンスは、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)に比べれば地味で目立たない。しかし、数字ばかりに目をやると、トルコの国情を見誤るだろう。

ボスポラス海峡から望むイスタンブールの街並み

 冒頭にも述べたように、今回の学術交流のミッションは日本、トルコ、そしてアジア、ヨーロッパを股にかけて活躍するイノベーション人材の養成である。この一大ミッションに賛同したアンカラ大学、イスタンブール大学と東京農工大学が正式な協定を結び、今後かかるイノベーションを推進してゆこうという遠大な目標をいただくプロジェクトだ。

 隣国の中国や韓国ばかりがアジアではない。視野を拡げて、イノベーションを創発する人間を、日土親善友好の歴史の中に見つけてみよう。そこで、文化、文明を語り、地の利、人の和、天の時を我がものとして、独自のインテリジェンスを体現した山田寅次郎なる人物に注目したい。

エルトゥールル号遭難とトルコの親日感情

 トルコが抱いている親日感情を語る時に必ず言及される逸話がある。ざっと紹介しよう。

 1890年、皇族小松宮夫妻のイスタンブール表敬訪問に応えるため日本にはるばるやってきたオスマン帝国の軍艦エルトゥールル号が、帰路、和歌山県串本町沖で遭難し、500人以上の犠牲者を出してしまった。

 この悲劇に際して、大島村(現在の串本町)の住民たちは、地域を挙げて全力で救難救助と生存者の救済にあたった。住民は、なけなしの衣類、備蓄していたニワトリ、穀物などを進んで差し出し、生存者たちの健康回復に努めた。この献身的な努力の結果、トルコ人69人の命が救われ、日本側が特別に準備した軍艦「比叡」と「金剛」で母国へ生還することができたのだった。