起業志向の学生を対象にしたイベント「Infinity Ventures Summit(IVS) Summer Workshop 2011」が、2011年8月20日に約450人の学生を集めて開催された。

 今回のワークショップは、インフィニティ・ベンチャーズが主催する、IT業界の経営者を対象とした年2回の招待制のカンファレンス「IVS」の学生版。2010年12月に京都大学で開催した第1回イベントに続くものとなる。慶應義塾大学で開催された今回の第2回イベントは、ビジネスコンテストなどを開催するKBC実行委員会との共同開催の形をとる。

 イベントプログラムは、「著名経営者」「一線のプロ」などのテーマに沿った、5個のパネルディスカッションで構成された。

「アイデアはひらめかない」

 このうち、アレックス社長兼CEOの辻野晃一郎氏、GMOインターネット会長兼社長 グループ代表の熊谷正寿氏、ディー・エヌ・エー社長の守安功氏、KLab社長の真田哲弥氏による著名経営者セッションでは、聴衆が学生であることからベンチャー企業トップの学生時代の経験をそれぞれ紹介した(写真1)。

写真1●著名経営者によるセッション<br>左からアレックス社長兼CEOの辻野晃一郎氏、ディー・エヌ・エー社長の守安功氏、GMOインターネット会長兼社長 グループ代表の熊谷正寿氏、KLab社長の真田哲弥氏。
写真1●著名経営者によるセッション
左からアレックス社長兼CEOの辻野晃一郎氏、ディー・エヌ・エー社長の守安功氏、GMOインターネット会長兼社長 グループ代表の熊谷正寿氏、KLab社長の真田哲弥氏。
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 熊谷社長は、実業家の家庭で育ったことから「レストランに入っても常に客単価を意識させられた」など、日常の生活で経営感覚が自然に磨かれたとする。守安氏は、研究室に割り当てられた就職枠に対してじゃんけんで結果が決まってしまう不合理性に疑問を持ったことが、専門学科(航空工学)とは違う道に進んだきっかけだったという。真田氏は「ソフトバンクの孫正義社長や、パソナの南部靖之社長など、著名なベンチャー経営者に会った」とし、学生だとしても臆せずに会えばいいとアドバイスした。

 各トップに共通するのは、とにかく肯定的なこと。ソニーからグーグルに移り、現在は日本の優れた製品を紹介する事業を始めている辻野氏は、日米の著名企業で働いた過去を振り返り「ソニーに入ったことは大正解。人生に無駄なことはない」とする。学生時代の専門を捨ててIT業界に飛び込んだ守安氏は「学生時代の勉強がどこまで役だったか分からないが、結果は正解だった」という。

 「採用面接で、どんな学生は面白いか?」という問いに対して辻野氏は、「世の中が大きく変化しているのに30年前から変わっていない就職発動には違和感がある」とし、人とは違う生き方を主張することを薦めた。自身のグーグル入社時の面談を振り返り、「米国企業は人を採用するのにエネルギーを使うのに比べて、日本企業は安易すぎないか」と疑問を呈した。

 守安氏は、採用したい人とは「一緒に仕事したい人、前のめりな人」だという。会話が弾むなど、コミュニケーション能力も重視する。熊谷氏は採用が「同じ船に乗る」ことだとし、人生を何に捧げるのか、という考えが一致している人を採用するとした。真田氏は、最近は面接の傾向と対策に長けた学生が増えているので、一般的な面接はせずに、一緒にゲームをして「地頭の良さや回転の速さ」を試してみるという一風変わった採用活動を披露した。

 参加した学生からは「新しいアイデア」の生み出し方について質問が寄せられた。守安氏は「既存のサービスではなぜ不満に感じるのか、論理的に考えることにしている」と言い、真田氏も「ふと思いつくことはない。知識があった上で、四六時中考えることで生まれるものだ」と、新しいアイデアはひらめくものではないという考えに同調した。KLabでは、あるテーマに基づいた合宿などを開催して、同じことをひたすら考える時間を作るようにしているという。熊谷氏は「アイデアが出てくるのは、ユーザー視点か自分視点で不満があったとき」だという。「自分で改善するならどうすればいいか」という姿勢から、改善のアイデアが出てくるものだとした。

 就職を考えているという別の学生からは、「2~3年で社内で頭角を現すにはどうすればいいか」という質問が出た。この質問に対する守安氏の答えは「自分の専門領域を決めて、負けないところを作ること」とする。辻野氏は「他人と比較していることが邪心ではないか。自分がやりたいことを一途にやることだ」と辛口で応じた。真田氏は大企業にいるデメリットとして「看板とマニュアルがしっかりしていることで、仕事ができる気になってしまうこと」を指摘。柔軟性が退化しないように意識してほしいとした。

 起業家への質問らしい「20年生き残っている会社と、途中で退場した会社とは何が違うのか?」という問い掛けもあった。真田氏は「退場した会社は、成功している商売がずっと続いていくと思っていた」との見解。同氏としては、黒字の事業だとしても下り坂であればやめる、との経営哲学を持っているという。事業を長続きさせるには、次の新しい流れを常に考え、変革の姿勢を持ち続けることがカギだとした。熊谷氏は「一言で答えれば、ダーウィンの進化論。周囲の変化についていける会社が生き残る」とした。同氏は「朝令暮改は褒め言葉」として、常に前言を見直すようにしているという。さらに、「“単品の会社”は生き残っていない」とし、中核事業に周囲のサービスを積み重ねるように心がけているという。