3月11日午後2時46分、仙台市にある生活協同組合連合会コープ東北サンネット事業連合のオフィスが大きく揺れ始めた。「大きいぞ」「キャー」。悲鳴が上がり、職員は必死に机の下に潜り込んだ。バンッ、ガシャンという轟音とともに天井や壁の内壁材が崩れ、白い粉が舞った。誰も顔を上げる余裕さえない。揺れは6分近く続き、オフィスは無残な状態になった(写真)。

写真●被災したシステム部のオフィス
写真●被災したシステム部のオフィス
仙台市内にある、コープ東北サンネット事業連合 システム部のオフィス。3月11日の大地震で半壊状態になり、数人の軽傷者が出た。急遽、隣の建物に臨時のオフィスを構え、システム復旧にあたった。中央の人物は、復旧の指揮を執った新井田 匡彦氏(45歳)
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 システム部の部長、新井田 匡彦もそのオフィスにいた。揺れが収まると「みんな外に出ろ!」と声を張り上げた。建物が古く、倒壊の恐れがあった。

 安否確認は建物の外で行った。その日オフィスにいたシステム部のメンバー32人(協力会社を含む)は幸い、無傷か軽傷で済んだ。しかし新井田はほっとする間もなく、データセンター内の基幹業務システムを案じた。

 サンネット事業連合には、東北6県にある七つの生協が加盟している。加盟生協の基幹業務システムはすべて、仙台市内にある外部のデータセンターに集約し、新井田が率いるシステム部が一手に運用していた()。基幹業務システムが止まれば、加盟生協すべての業務が滞る。新井田はこの危うさを認識していたが、コスト削減のため対策を講じられないでいた。

図●東北6県の生協連合のシステム構成
図●東北6県の生協連合のシステム構成
コープ東北サンネット事業連合に加盟する東北6県の七つの生協は、基幹業務システムをすべて仙台市内にある外部のデータセンターに集約し運用していた。このデータセンターが被災し、システムが全停止した
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 「いずれ大地震が来ることは分かっていたのに」と歯がみしながら、データセンターに常駐している協力会社の運用担当者に携帯電話をかけると、運良くつながった。運用担当者は無事だったが、オペレータールームは仕事をできる状態ではなくなったという。基幹業務システムはすべて電力供給が途絶えて落ちている。しかし実際にどうなっているのかは分からないとのことだった。その後、停電の影響か、携帯電話は全く通じなくなった。

 直接確認するため、新井田は自分のバイクに乗り、十数キロ離れたデータセンターへ向かった。途中、道路の一部が津波で冠水していた。到着してサーバーフロアに駆け上がると、1台のラックが隣のラックに寄りかかるように倒れていた。地震の揺れが免震床の許容範囲を超えたらしい。そのほかのラックの免震床も、強い揺れが原因で機能しなくなっていた。大きな余震が来たら倒れかねない。システムを再起動できる状態ではなかった。