東日本大震災を機にV-Lowマルチメディア放送におけるデジタル新型コミュニティ型放送を再評価しようという動きが具体化している。

 ここでいうコミュニティ放送とは、市町村単位の放送であり、こうした単位での地域に密着した防災情報や生活支援情報の提供媒体となりえる放送のことである。例えば東日本大震災では、既存のコミュニティ放送局に加えて、アナログFM放送による臨時災害放送局(免許主体である自治体)が次々と立ち上がり、被災者に向けた地域情報の提供を開始した。V-Lowマルチメディア放送は移動受信が可能なデジタル放送であり、データ放送の容量が大きく、かつ蓄積型放送も可能である。アナログFM放送をベースとする現行の放送と比べても、防災情報などの提供という面から機能の一層の強化を図ることができる。

 アナログ放送の跡地を利用するマルチメディア放送にはV-High帯を利用するものがあり2012年4月のサービス開始に向け準備が進んでいるが、こちらは全国一律の放送である。地域別の安心・安全のためのメディアという位置づけは、周波数を地域別に分割して使うV-Lowならではの発想である。震災時の報道で大きな役割を担ったラジオ局も参加しながら、新型コミュニティ型放送を組み合わせて、地上アナログ放送の跡地を使うV-Lowマルチメディア放送に対し、より強く「公共」としての役割を担わせようというわけだ。

シナリオを書き換え最初からコミュニティ実現を

 例えば、2011年8月に総務省により順次始まっているV-Lowマルチメディア放送に関するヒアリング(非公開で公式なヒアリング、関連記事)で、3セグメント放送を推進するFM東京は、災害時に強い放送型の緊急時情報配信インフラへの要望に配慮して、「デジタル新型コミュニティ放送サービスを放送制度開始当初からスタートすべき」と主張した。

 これは、実用化に向けて従来から議論してきたシナリオの一部を書き換えることになる。これまでは「広域ブロック(関東・中京・京阪神)+県域」を先行させて、いわゆる新型コミュニティ放送は、これらの放送が開始して空いた周波数があれば検討するという位置づけだった。FM東京の提案は、最初から制度上の位置づけをハッキリさせ、例えば自治体が希望する地域においては広域や県域の放送などと同時に実用化を図るべきというものである。「緊急時に安全安心情報を住民に向けてプッシュ型で一斉同報配信できる放送サービスとし、地方自治体自身が主体となってこの責務を果たせるような制度設計を希望する」とした。

 V-Lowマルチメディア放送は、18MHz幅(VHF第1~第3チャンネル)を分割し、各ブロックや県域に割り振る形になる。広域ブロックにおいては13セグメントを広域ブロック放送に割り当て、各市町村地域には3セグメント、県域では6セグメントを県域放送に割り振り、各市町村地域には3セグメントを割り振ることを提案している。

 制度設計に必要な項目は、セグメントの配分だけではない。FM東京は、ヒアリングにおいて、「防災無線などの補完あるいは地域コミュニティの再生などの公共性が高い目的を実現するためには、少なくとも緊急時のサービスは自治体自身が放送主体となるべきと考えられる」としたうえで、住民が緊急時に端末を使いこなすためには日ごろ操作に習熟することが不可欠で、「平時は民間企業に委託しつつも、緊急事態発生時には自治体が直接制御に強制切り替えができるように設計することも検討されるべきではないだろうか」と提案した。

 また、デジタル新型コミュニティ放送の設備整備を促進するため、例えば送信所設備の設置場所などについて自治体が無償でハード事業者に提供するなどの制度の検討なども提案している。

3広域・2県域・5市域で先行実験放送を提案

 こうした制度上の課題の検証を行うために、先行実験放送の実施を提案した。またデジタル新型コミュニティ放送の出力が小さいとはいえそれでも混信を考慮すると確保できる周波数には限界があり、制度上の位置付けを明確にし県域やブロック放送と同時にスタートさせるためには、デジタル新型コミュニティ放送にどこまで周波数を確保できるのかの検証も事前に行う必要がある。

 FM東京らは、V-Lowマルチメディア放送のソフト事業展開に向けて、国内を六つのエリアに分けて東京マルチメディア放送などそれぞれのエリアで立ち上げている。このV-Lowマルチメディア放送会社連合は、ハードを構築・運用する側としても責任を担うことを希望し、準備を進めていることを今回のヒアリングでも改めて表明したうえで、今後のスケジュールとして、3広域・2県域・5市域で先行実験放送の実施を提案した。

 新型コミュニティ放送として加古川市、唐津市、舞鶴市、大阪市、富士市を提案する。加古川市は「日常の行政情報と、防災無線の補完」、唐津市・舞鶴市は「原発関連情報の見える化と安心安全」などの課題を検証する目的である。大阪市と富士市は、「平常時には民間が委託を受けて商用放送し、緊急時に自治体が主体となって放送する」という内容を実験する。大阪市は、地下街の安全と商用、富士市はSA(サービスエリアの防災無線化と商用)を進める。

 例えば県域放送事業者がエリア内の複数のコミュニティ放送事業の経営支援を行うなどして互いに経営効率化を図れる可能性がある。県域放送を先行実験の中で実施する理由の一つとして、既存のアナログラジオ局を含めて経営的連携のチャレンジを行っておくことが有意義であるという考えも示している。

 スケジュール案としては、福岡県を先行させ、2011年秋の開始を想定する。2012年春には5都市におけるコミュニティ型放送、さらに同年秋には3大広域圏と県域放送となる静岡県でスタートさせる。そして、V-Highマルチメディア放送が開始して1年半後となる2013年秋をメドにこれらを本放送に切り替えようというものである。