有限責任 あずさ監査法人
商社ワーキング・グループ・リーダー
パートナー 公認会計士
荻野 毅

 本連載は、日本企業がIFRS(国際会計基準)を導入する際の留意点からIFRSによるインパクト全般までを主要な業種別に見ていくことを目的としている。前回は食品業について、リベート処理を中心にIFRS導入のポイントを説明した。今回は商社におけるIFRS適用上の留意点を見ていく。

今回のテーマは収益

 「財やサービスなどを売りたい」と考える業者(供給者)と、「財やサービスなどが欲しい」と考える業者(購入者)との間に入り、物理的および経済的なサービスを提供する。これが商社のビジネスの基本である。このことから、商社にとってIFRSの影響が最も大きいのは、ビジネスの根本である「収益」であると考えられる。

 収益は商社に限らず、多くの企業に対して大きく影響を及ぼすとみられる事項である。以下、主に二つのトピックについて説明したい。一つは、業務や情報システムに与える影響が大きいと思われる物品(財)の販売に関する収益認識。もう一つは、商社に特有なテーマであり、主要な財務数値である売上高(収益)に大きな影響を及ぼす代理人取引である。

収益認識に関する注意点

収益を認識すべきタイミング

 IFRSで収益について規定しているのは、IAS第18号「収益」である。IAS第18号は物品の販売に関して、次の五つの要件をすべて満たした時に収益が認識されるとしている。

  1. 物品の所有に伴う重要なリスクおよび便益が売り手から買い手に移転済みである
  2. 売り手は販売した物品について、通常所有とみなされるような継続的な管理上の関与も有効な支配も保持していない
  3. 収益の金額を信頼性を持って測定できる
  4. 取引に関連する経済的便益が売り手に流入する可能性が高い
  5. 取引に係るコストを信頼性を持って測定できる

 IFRSでは、「売り手から買い手に物品が移転した」時点において収益を認識する必要があると明確に規定している。この点に留意する必要がある。

 上記の規定は、法的な意味での「所有権の移転」のみで収益認識時点を判断することを意味しているわけではない。売り手は物品を所有することにより、その使用や販売によって便益を得ることができる。一方で、所有に伴う紛失・破損リスクや陳腐化リスクなどを抱えている。

 物品が買い手に移ると、どうなるか。買い手との間で取り決めた金額以外の便益を得られなくなる一方で、物品の所有に伴うリスクから解放される。このため、売り手の物品が買い手のものに変わる時が、実質的に売り手にとっての収益認識時点となる。買い手にとっては、この時が仕入れの認識時点となる。

 わが国の実務では、検収が必要でないものは出荷基準で収益を認識するケースが多い。この場合は、物品を出荷したタイミングを収益認識時点と見なしている。このように、IFRSとは収益の認識時点が異なる場合がある点に注意が必要である。