行政は保有する情報をどう生かすべきか。諸外国ではこの議論が盛んだ。2011年の4月と7月に、政府CIO(最高情報責任者)などが集う国際会議に参加して、このことを痛感した。

 米、英、オーストラリア、ニュージーランドの情報政策担当者たちは、行政が持っている情報を「初期設定として開示(open by default)」するという考え方を共有している。つまり、行政が預かっているデータは税金で生み出された国民の資産であって、行政は明確な非開示理由がない限り、生データを迅速かつ無料でオープンにすべきという考えだ。

 連載の最初のテーマとして、各国政府が「初期設定として開示」の原則で進めている行政情報のオープン化(以下「オープンガバメントデータ」という)の動きを紹介したい。

なぜ、いま、オープンガバメントデータなのか?

 行政の持つ情報の開示を進めるための制度は、すでに多くの国々で整備されている。日本でも、1999年に「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」が成立し、国民の開示請求権と行政機関の開示義務が規定されている。しかしこの制度は、行政が国民からの申請を受けてはじめて開示する受け身の仕組みだ。

 一方、オープンガバメントデータの議論は、税金で生み出された情報は、国民の資産であり、行政はその情報を預かっている“管理人(custodian)”に過ぎないというものである。つまり、開示請求などしなくても、そもそも行政が保有している情報の所有者は国民であって、常に利用可能な状態になっているべきという考え方だ。こうした考え方が諸外国で主流になりつつあるのは、次の3つの要因が同時に満たされてきたからだと考えられる。

 第1は、行政は国民生活に関連する膨大な情報のほとんどをデジタルデータで保有するようになり、国民へのオンラインでの情報提供がコストをかけずに可能になっているにもかかわらず、そうなっていないことが課題視され始めたことだ。

 第2は、インターネットが普及し、誰でも、どこからでも、いつでもインターネット経由で情報にアクセスできるようになったこと。さらには、クラウドコンピューティングの普及により、分析のためのアプリケーションを無償で利用し、協働できる環境が実現していることである。

 第3は、データを無償で提供することで、大きな経済価値が創出され得るという認識が広がってきていることだ。ドン・タプスコット氏は著書「ウイキノミクス」の中で、カナダの倒産しかかっていた金鉱山会社ゴールドコープが収益性の高い会社に変身した事例でこのことを説明している。

 ゴールドコープは、社内秘であった地質データをインターネットで公開し、57万5000ドルの賞金をかけて新しい金鉱脈の位置を世界中に尋ねた。すると、110カ所の鉱脈の位置が示唆され、その半数はゴールドコープが気づいておらず、また、その80%で実際に金が見つかり、発見された金の総量は250トンに上ったという。行政保有データもオープンにすることで、同様の経済効果を期待できるという発想だ。