2011年3月下旬、中国携帯電話事業者トップ3の2010年度決算が発表された。そこで公開されたプレゼン資料には、2011年以降の各社の戦略が読みとれる興味深いトピックスが少なくない。今回は中国移動、中国電信、中国聯通の決算発表資料から各社が強調する2010年度の成果や今後の戦略について解説する。


 2011年3月下旬、中国移動(チャイナモバイル)、中国電信(チャイナテレコム)、中国聯通(チャイナユニコム)の順で各社の香港上場会社が2010年度(会計年度は1~12月)決算を発表した。中国移動と中国電信は増収増益、中国聯通は増収減益となった(表1)。中国移動の収益力の高さは他の2社を圧倒するものであり、その差はここ数年で拡大傾向にある。今回は3社が決算発表時に公開したプレゼン資料から、2011年以降の各社の戦略に関して特徴的なトピックスを紹介する。

表1●中国通信事業者3社の業績比較<br>各社の2010年度決算から比較用に情報通信総合研究所が作成。カッコ内の数値は対前年度比。
表1●中国通信事業者3社の業績比較
各社の2010年度決算から比較用に情報通信総合研究所が作成。カッコ内の数値は対前年度比。
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他の2社を圧倒する中国移動

 中国移動は業界の速い環境変化への適応を主眼とし、新たな業態を発展させていくことを表明している。例えば、2010年に出資した上海浦東発展銀行を活用した非接触ICによるモバイル決済などが眼中にありそうだ。同社は携帯市場の飽和およびそれを背景とした市場競争の激化によるリスク上昇を新たなチャレンジとして、業界横断的な競争がより明確になると意識している。さらに、モバイルインターネットが昨年から爆発的に成長していることを踏まえ、伝送能力に対して未曾有のチャレンジが生まれているという。

 ただしこれらのチャレンジは「チャンス」であるという認識の下、政府が強力に進める「情報化・工業化」による「物聯網」(M2Mとほぼ同義)などは、業際間の融合と内需拡大を喚起して、情報通信へのニーズ拡大の追い風になるとみている。こうした動きによって創出される新たなモバイルデータトラフィックが、同社の収入増の源泉になると期待する。

 それを同社は「スマートパイプ」と表現している。スマートパイプは中国電信や中国聯通も同様の表現をプレゼン資料で使っているが、単純に大量のデータのみが流れて事業者の収益を圧迫する「ダムパイプ」ではなく、周囲の政策やサービスと連携した「スマートなパイプ(管路)」を提供していくという意味であろう。その動きと密接に関連する物聯網は今後10億カ所規模のアクセスポイントが想定され、潜在性は極めて巨大としている。これと連動して各地方政府などとの提携で「無線都市」(Wireless City)の建設を進めている。同社が推進するTD-LTEについては、昨年の上海万博や広州アジア大会での実験網成功をもとに、今後も積極的に推進する意向を示している。

 中国移動が他の2社に先駆けて注力しているアプリケーションストア「Mobile Market」は、累計登録顧客数が3500万、アプリダウンロード累計は1億1000万回、開発者数は110万、各種アプリは5万件という。無線LANを優先的に選択することで、大容量トラフィックによる圧迫回避を重視しており、「無線LANのネットワーク能力やプロダクト品質の向上で、課金時間数は6倍近くまで成長した」とする。昨年からローコストデータセンターの建設を始め、これを用いたクラウドトライアルを実施するなど、モバイルと一体となったクラウド化への対応が鮮明になりつつある。