「チャイナプラスワン」の動きが広がるなかで注目を集める国がベトナムだ。国家を挙げてICT産業の振興や人材育成に取り組んでおり、国内のICT市場も2ケタの高成長率を誇る。通信環境は比較的充実しているが、カタログ通りの速度が出るとは限らないのが注意点だ。

 ここ最近、アジア進出を図る企業の間では、「チャイナプラスワン」と呼ぶ動きが広がりつつある。中国だけでなく、それ以外の国にも進出したり投資したりすることで、リスクを分散する動きのことだ。

 プラスワンの有力候補がベトナムである。他のアジア諸国に比べて政情が安定していること、国民の平均年齢が20代と若いために高い経済成長が期待できることなどが理由である。国家を挙げてICT産業の振興やICT人材の育成に取り組んでおり、この面でも注目すべき国の一つだ。

ソリューションは外資系が先導

 ベトナム情報通信省によると、消費者向け製品・サービスも含む2009年のICT市場は、売上高が前年比18.1%増の61億6700万ドル(約5000億円)だった。内訳はハードウエアが同12.9%増の46億2700万ドル(約3800億円)、ソフトウエアが同25.0%増の8億5000万ドル(約700億円)、デジタルコンテンツが同56.8%増の6億9000万ドル(約550億円)だった()。

図●ベトナムにおけるICT市場規模<br>ハードウエアを中心に、高成長を続けている
図●ベトナムにおけるICT市場規模
ハードウエアを中心に、高成長を続けている
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 ハードウエアの売上高が突出して多く、2009年のハードウエア売上高は2000年比で8倍に成長している。サーバーやパソコン、ネットワーク機器などが売れることでIT市場が広がってきた。最近は成長の中心がソフトやコンテンツにシフトしつつある。ハードウエア投資は今後も続くと思われるが、今後は投資した資産をいかに安定して利用し、本業の利益につなげていくかという段階に入ってきた。

 現状のベトナムで、ソリューション販売を先導しているのは外資系企業だ。IBMやヒューレット・パッカード、デル、シスコシステムズ、ジュニパーネットワークス、マイクロソフト、オラクルといったグローバル企業が参入している。日系企業ではNECやNTTコミュニケーションズ、富士通などがアプリケーション開発やネットワーク構築といったサービスを提供している。ベトナム資本のシステムインテグレータは、グローバル企業と協業して製品やサービスを販売している。

 外資系の存在感が強いなか、ベトナム勢ではFPTグループが気をはく。ベトナム最大手のIT企業グループで、もともとは科学技術省傘下の国有企業だった。FPTグループの一つ、FPTソフトウエアは日本においてもオフショア開発で有名だ。ベトナム国内ではソフト開発以外にも、インターネット接続やデータセンター、IT関連商材卸売、システムインテグレーションなどをグループ会社で手掛けている。

 ただし現状のベトナムでは、個々の製品を組み上げて、一つのソリューションとして提供するというビジネス形態や文化そのものが未成熟だ。顧客に応じて多様な製品を最適に組み合わせて提案するのではなく、顧客が指定する製品を販売するだけの“物売り”にとどまるICT企業が多い。ベトナムICT産業の中心であるハードウエア業界も、製品を輸入して販売するという単純な形態が中心である。