「我が社のソーシャルメディア利用はどうなっているのかね?」。社長からこう質問されても、本書を読んだ情報システム責任者であれば的確な答えを返せるはずだ。実際、本書の後半(第7章から第14章)は、マネジャーや情報システム部門向けに書かれている。

 著者二人は、米フォレスター・リサーチに所属するアナリストで、TwitterやFacebook、YouTubeをはじめとするソーシャルメディアを企業が活用する事例を多数調査してきた。その結論は、ソーシャルメディアを駆使して顧客の問題を解決する“HERO”を経営者と情報システム部門が支援すべき、というもの。著者は「自社が変わるのを待っている必要はない。自分で変化を起こそう」と呼びかける。

 HEROとは、“Highly Empowered and Resourceful Operatives”の略で、「大きな力を与えられ、臨機応変に行動できる従業員」を指す。本書の前半でHEROたちの活躍が報告される。顧客がソーシャルメディアを日常で使っている以上、企業は従業員を解き放ち、顧客と同じメディアを使わせて、新しいやり方で顧客に接する必要がある。それをせずに「システムに鍵を掛け、HEROを締め出し、イノベーションを困難にする企業(中略)は、もはや力を持った顧客には対応できなかった」という事態に陥る。

 著者によれば、今後の情報システム部門は「テクノロジーを使ったHEROのプロジェクトの推進者となり、擁護者となり、支援者となる。そのためには考え方を変えなくてはならない」。HEROが「使いたい」と言ってきた技術について、情報システム部門は「できない」「リスクがある」とは言わず、「任せてください」と応じ、適切な助言をする。そして常に技術の進歩に目を向け、イノベーションやコラボレーションを促進する社内システムを用意していく。

 60件もの取り組みが紹介されるが、大半が米国の事例である。米国の本だから当然だが、「ソーシャルメディアを最大活用する」ために、登場人物が選択したソフトやツール、サービスの大半が日本でなじみがない、つまり日本に入ってきていない点が気になった。日本のIT産業が優れたソフトやツール、サービスを用意し、日本の情報システム部門が使いこなし、日本のHEROを支援することを期待したい。

エンパワード

エンパワード
ジョシュ・バーノフ/テッド・シャドラー著
黒輪 篤嗣訳
翔泳社発行
2310円(税込)