ITに携わる技術者すべてに「非技術スキル」が求められる時代になってきた。これは、ITの潜在力を業務改革やビジネス変革に活用したいという、経営者からの期待を背景としている。ユーザー企業のIT部門でもITベンダーでも、技術者に期待される内容は同じだ。非技術スキルのなかには、ファシリテーションやビジネス分析、問題解決手法など、従来であればコンサルタントやビジネスアナリストに求められていたスキルが含まれる。本書のタイトルでもある「しきる技術」も、まさに重要な非技術スキルの一つだ。

 著者は、破綻しかけているシステム構築プロジェクトを立て直す「火消しプロマネ」としても活躍している人物だ。新米プロジェクトマネジャー時代から「しきり役」として奮闘した経験を基に、これからリーダーを任される若手技術者に向けて、プロジェクトマネジメントやコーチングに関する実践的ノウハウを解説した一冊である。メンバーの士気を高めつつ、ユーザーから真の要求を引き出し、ゴールを共有し、日々の問題に対処する。そのための手法が、著者の経験談とともに紹介されている。

 本書では、マネジャーになるよりも生涯プレイヤーでいたいという、昨今の「草食系エンジニア」へのメッセージが多く提示されている点が興味深い。最近ではビジネスサイクルが短期化し、情報システムに対するニーズの多様化と変動が著しい。そのため、カリスマ型リーダーが率いる大型プロジェクトが減少し、多数の小型プロジェクトを矢継ぎ早に遂行していく時代になっている。そのため、かかわるすべてのメンバーが「しきる技術」を駆使して、プロジェクトを成功に導いていかなければならない状況といえる。そうした時代背景を反映した一冊だ。

 本書で述べられている「すべての仕事は、目的と目標を持ったプロジェクトである」という姿勢は、IT分野に限らず、あらゆる業務でも通用する考え方であり、共感できる。

評者:内山 悟志
大手外資系企業などを経て、1994年にアイ・ティ・アールを設立し、代表取締役社長に就任。ユーザー企業にIT戦略の立案などをアドバイスする。
「しきる」技術

「しきる」技術
克元 亮著
日本実業出版社発行
1470円(税込)