ニワンゴは、ソニーの液晶テレビ向けアプリ「アプリキャスト版ニコニコ実況アプリ」の提供を2011年6月下旬に開始した。

 ニコニコ実況は放送中の番組に関する視聴者のつぶやきを、放送局別に表示するネットサービスである。今回提供するアプリは液晶テレビ「ブラビア」に搭載されている「アプリキャスト」向けで、2008年以降に発売されたアプリキャスト対応テレビを使って無料で利用できる。

 アプリを使うと、テレビ番組の右側にニコニコ実況に投稿されたコメントが時系列に順次表示されていく。アプリはパソコンや携帯電話機から投稿されたコメントを表示するだけで、テレビからコメント投稿はできない。

 ドワンゴ ニコニコ事業本部 企画開発部の関正宏氏と、ソニーマーケティング ネットワークサービス部 PDサービス推進 GP ビジネスプランニングマネージャーの長澤一樹氏に、サービス提供の狙いや、放送とネットサービスの相乗効果について聞いた。(聞き手は西畑浩憲=日経ニューメディア

写真 「アプリキャスト版ニコニコ実況アプリ」の画面
写真 「アプリキャスト版ニコニコ実況アプリ」の画面
左側の放送番組に並んでアプリ画面にコメントが順次表示される
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サービス提供の狙いはどこにあるか。

長澤 コミュニケーションをキーワードに、テレビをもっと楽しんでもらいたい。リビングにあるテレビをコミュニケーションのハブとして、家族の会話のきっかけにするほか、ネットを通して家族じゃない人とも繋がれる楽しみ方を提供したいと考えた。ソニーとしてはこうした楽しみ方によるハードウエアの差異化が目的で、最終的に製品の売り上げに繋げたい。

 ニコニコ実況としては、利用者の獲得が最大の目的だ。ユーザー同士が楽しめる場を広けることで、コミュニケーションをさらに活性化させられる。

どう使われているのか。

 携帯電話機やパソコンから投稿されたコメントを、放送番組と同じディスプレイ上で表示する。テレビの横に置いたパソコンでニコニコ実況を利用する場合と比べると、アプリキャストは番組のすぐ横にコメントを表示できるので、視点移動が少なく見やすい。具体的な利用者数は非公開だが、当初想定していたよりは多く、ニコニコ実況の利用者数を約5%押し上げる効果があった。

長澤 アプリキャストでは約130本のアプリを提供しているが、この中でも利用は多いほうだ。リリース後2~3週間でランキングの10位以内に入っている。コメントの内容は「あーッ」とか、「笑」とか、感情をそのまま出しているものが多い。それで十分楽しい。

アプリ画面をL字型にしたり、テレビパソコン向けに提供しているニコニコ実況アプリのように、コメントを放送画面にオーバーレイしたりできるのか。

長澤 現在アプリキャストでは、仕様上放送画面とアプリの画面を左右で切り分けている。アプリ画面をL字型に出すこともしていない。現在のテレビでは処理能力が追いつかず対応が難しいため、オーバーレイは対応していない。

 コメントを放送画面にオーバーレイさせたいかと言われれば、させたい。ただし、リビングにあるみんなで視聴するテレビでそれをやると、刺激が強すぎる懸念もあり、検討が必要だろう。

ユーザーがコンテンツの提供元を誤解しないか

アプリも放送事業者が提供しているコンテンツとして誤解される可能性はないか。

長澤 アプリキャストの仕様上、電源を入れて最初に出るのはテレビの全画面表示となる。最初からアプリ画面が表示されることはない。アプリキャストを利用する場合は、ユーザー自身が操作して選択するので、そうした誤解を与えることはない。

ニコニコ実況で対応している放送は、関東エリアの事業者だけだ。地方局に対応する予定は。

 みんなで番組内容についてコメントして盛り上がるには、なるべくユーザーを分散させない方がいい。なので、同じ番組を放送しているキー局の投稿先にできるだけコメントを投稿して欲しいと考えるからだ。

 地方ごとの対応については、慎重に考えている。ユーザーが分散すると、アプリを使ってみても誰もコメントを投稿していないということになりかねない。もっとユーザーの認知が高まってから考えたい。

ニコニコ実況は多チャンネル放送に対応しないのか。

 対応したいところだが、こちらももう少しサービスの知名度が上がってからがいいと考えている。

テレビのチャンネル切り替えと連動して、アプリ側のコメント表示チャンネルも切り替わるのか。

長澤 テレビのチャンネル切り替えとアプリ側のコメント表示チャンネルの切り替えは連動していない。リモコンの数字ボタンでテレビのチャンネルを、上下左右の操作ボタンでアプリキャスト側の操作を行う。関東以外では、実際の放送チャンネルの番号と、その番組を放送している関東キー局の番号の異なる組み合わせで利用する必要があるので、別々に操作できるようにしている。

書き込み状況はどうか。平日日中の番組に対しても書き込みあるのか。

 昼間はどうしても少なくなる。「コメント勢い」として、1分間当たりのコメント数で比較しているが、地上放送なら少ない場合でも分間10~20コメント程度はある。先日のサッカー「女子ワールドカップ2011決勝」は分間2480コメントで歴代2位(編集部注:取材時、取材後にFNS27時間テレビが分間2667コメントを記録し、歴代2位を更新した)だった。歴代1位は分間2853コメントの「ターミネーター2」で、あらかじめ内容を知っていて突っ込みどころが分かっている番組や、スポーツなどの生放送番組で利用が多い。