未曾有の大災害となった今回の東日本大震災を契機に、速報性が優れている放送を中心とした情報発信から多角的なデジタル展開へと大きな変化をもたらした。日本放送協会(NHK)、日本テレビ放送網、TBSテレビ、フジテレビジョンは「IMC Tokyo 2011」(2011年6月8日~10日開催)において、「震災とメディア ~ファイル化運用からSNS活用まで。各局における対応事例~」と題し、3月11日に発生した国内史上最大となる東日本大震災時に各放送局が実施したデジタルメディア対応事例と今後の課題について講演を行った。後編では日本テレビとフジテレビの取組について報告する。

東日本大震災における日本テレビの対応

写真1●東日本大震災時の日本テレビのデジタル展開一覧
写真1●東日本大震災時の日本テレビのデジタル展開一覧
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 日本テレビは、3月11日の東日本大震災発生直後、被災地の宮城テレビ放送へ回線をつなぎ、緊急特番に切り替えた。この緊急特番は、発生3日後の月曜日の朝まで続いた。そして、全社体制で震災報道を行う一方で、デジタル担当の部門にも次の様なミッションがあったという。

  • テレビメディアの特性として、時間とともに増え続ける膨大な取材情報の集約
  • 被災地や帰宅困難者など家の中でテレビを見ることができない人たちへの情報提供

 そこで、日本テレビでは、テレビ放送以外にもウェブやデータ放送で補完することが重要と考え、今回の東日本大震災では、ワンセグ、データ放送、自社ホームページ及びソーシャルメディアであるTwitterとデジタル展開を行った。結果として、これらデジタルメディアは、「情報の集約やテレビを視聴できない人々への情報提供という点で、結果的に役に立ったと思っている」と日本テレビ編成局クロスメディア事業推進部プロデューサーの川辺裕介氏は説明した(写真1)。

ワンセグとデータ放送を活用した災害情報の提供

 今回の東日本大震災では、被災地の広範囲が停電した中で、一般にワンセグ端末がバッテリー駆動であったことから、災害時に非常に有効な情報ツールとなった。またデータ放送は、報道局で集めた避難情報、被害情報、交通情報などの災害情報を集約して放送し、さらに3月13日の夜に東京電力から計画停電が発表されたことを受け、この計画停電に関する情報をデータ放送で提供を開始した。川辺氏は「データ放送は、テレビの中で情報を集約してアーカイブ化できるため、災害時に非常に有効なサービスである」と有効性を強調した。

 テレビ放送以外の対応として、日本テレビのホームページを災害情報を優先としたレイアウトへ大幅に変更し、ニュース専門チャンネル「日テレNEWS24」のVOD(ビデオオンデマンド)による震災後のニュースの提供、第2日本テレビでは被災地からのメッセージ動画や応援メッセージ動画を掲載した。その結果、震災に関するニュース動画の再生回数が、最大で平常時の18倍に増えたという。

 また、日ごろから動画配信は行っていたことから、テレビ放送のインターネット再配信も検討したが、「電話がつながりにくい状態の中で、メール連絡にも悪影響を与えてはいけないという判断から、インターネット再配信は断念した」と説明した。しかし、この断念したことに関して「これは反省点でもある」と語った。

Twitterを利用した災害情報配信と課題

写真2●Twitterによる災害情報配信時の課題
写真2●Twitterによる災害情報配信時の課題
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 日本テレビでは、テレビ放送を視聴することができない人たちに向けて災害情報を伝えることが重要であると考え、新たな試みとしてTwitterを利用した災害情報配信を実施した。しかし、いざTwitterを利用しようと考えた時に、NEWS配信用Twitterアカウントがなかったため、唯一のTwitterアカウントである番組宣伝用アカウント「ダベア」を使用した。そして、震災発生日から月曜日までの3日間24時間体制で帰宅困難者向けの宿泊情報、被災地へは津波情報をTwitterで配信した。また、人力で日テレNEWS24のテキスト記事をコピー&ペーストし、140文字以内になるように分割して配信した。

 今回は、被災地向けの情報と首都圏向けの情報を同じアカウントを利用したことで、必要とする情報にかい離が生じてしまうという問題が発生した。特に、詳細な被災地の情報提供が重要であるが、被災地にある現地局側はデジタル展開する余裕がなく、対応が難しいという非常に厳しい問題に直面したという。さらに、「Twitterは速報性と伝播力に優れているが、情報を整理し蓄積していくことには向いていないという課題もあった」とTwitterの課題点を指摘した(写真2)。

大規模災害時における今後の課題点

写真3●課題点と今後の対応について
写真3●課題点と今後の対応について
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 川辺氏は、今後の震災対応について、「災害時に威力を発揮するワンセグ携帯やスマートフォン対応の強化、特に、モバイル向けにデータ量が軽く操作性が良い情報を整理した災害サイトの準備が重要」と説明した。そして、被災者の動画による安否情報の提供について、安否情報を提供している他社との連携も課題と指摘した。最後に、川辺氏は「被災地の系列局とは、テレビ連携につては対策がマニュアル化されているが、デジタル展開における連携についてまでは考慮されていなかったため、予め体制を作っておくことも課題」と説明した(写真3)。