フィリピンに赴任したのは約2年前。当時は他のアジア諸国、特にインドやベトナムなどに比べ、フィリピン経済には停滞感があるように思えた。しかし、そんな状況でも急成長しているのが、顧客企業の業務の一部を請け負うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業である。

 2010年のフィリピンにおけるBPO産業の売上高は89億米ドル、前年比26%増と好調だ。また、このうちの7割を占めるコールセンター業務の売り上げ規模は、インドを抜いて世界一になった。いまや早くからBPO拠点であったインド企業ですらフィリピンに拠点を開設し始めており、今後も高いペースでの成長が期待されている。

 フィリピンでBPO産業が急成長した理由としては、英語が堪能な安い労働力を確保できる点が挙げられる。背景には、米国がフィリピンを統治していた時代に、義務教育の無償化や、米国人教師の派遣などを通じて、学校制度と英語教育を普及させたためと言われている。インドに比べ、米国文化への理解と親和性がより高く、短期間のトレーニングで米国アクセントの英語も話せるようになる。こうした適応力の高さが評価されている。

 日系企業によるフィリピンへのBPO事例では、ソフトウエア開発やCAD設計といったIT領域をアウトソーシングしていることが多いようだ。しかし最近、コールセンター業務を応用して、フィリピン人講師による英会話サービスをインターネットを介して日本に提供するといった新ビジネスも登場している。

甘さの見られるセキュリティ意識

 今後もBPO産業は、顧客のニーズに合わせて変化、発展していくだろう。ただ、さらに発展していくには情報セキュリティへの対応が課題になりそうだ。委託元の企業からも、アウトソース先の企業に対して、顧客情報をどのように守っているか示してほしい、という要望が高まっている。

 これに対応して、フィリピン貿易産業省でも2006年に個人情報保護ガイドラインを定めたり、BPO企業の間で情報セキュリティの国際認証を取得する動きが広がっている。しかしながら、全般的にまだIT統制の意識が低いというイメージはある。例えば、ある企業のIT担当者が、自社サーバー上に違法コピーソフトを置いておき、他のスタッフがそれを悪びれずに自分の端末にインストールして使っていた、という話を聞くこともある。

 このような社員一人ひとりの意識の低さが見られるところが、セキュリティの甘さを指摘される根底にあるのかも知れない。日本でセキュリティマネジメント推進に携わってきた私としても、経験を生かして当地のセキュリティ意識向上に寄与したい。

飯田 秀樹(いいだ ひでき)
NTTコミュニケーションズ フィリピン社長兼CEO、2009年7月に赴任。インドネシアにて7年間、法人営業とISPビジネス立ち上げに従事、今回が2度目の家族帯同での海外赴任。趣味は旅行、今年はバナウェイの世界遺産(ライステラス)を見に行く予定。週末はマニラ少年野球リーグの日本人チーム(MJB)のコーチとして、今期リーグ戦優勝を目指し子供達と野球を楽しんでいる。