IFRS(国際会計基準)の強制適用について議論した2011年6月30日の金融庁 企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議。企画調整部会に新たな臨時委員が追加になり、合同会議は大人数での議論となった(関連記事:IFRS強制適用に賛否両論---企業会計審議会総会報告)。6月21日の自見庄三郎金融担当大臣の発言を含め、6月30日の企業会計審議会は、以前からの企業会計審議会委員には議論はどのように映ったか。企業会計審議会委員の一人である青山学院大学大学院の八田進二教授に聞いた。(編集部)


自見庄三郎金融担当大臣の発言は、企業会計審議会での審議を通じてではなく、自ら決断した「政治主導」との説明でした。審議委員の一人として、どのように思われますか。

 会計基準はそもそも中立性、独立性を前提としている。そのため、公平なデュープロセス(適正な手続き)が非常に重要だ。2009年6月に公表した「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」は、(企業会計審議会の下部組織である)企画調整部会や企業会計審議会総会での審議という手続きを経ている。

 今回の大臣発言は、デュープロセスが明確でなかった点が問題だ。会計の世界では声が大きい人の意見が通るわけではない。公平な合意形成を重んじる。

 米国もデュープロセスを踏んでいる。IFRSの適用を判断するためのポイントや計画を記述した「ワークプラン」を公表したり、関係者の意見を聞くための「ラウンドテーブル」を開催したりするのが、その一例だ。

合同会議での意見や、合同会議に提出された文書の中には「IFRSは日本になじまない」との主張がありました。

 IFRSを構成する会計基準の中には、金融商品を規定した「IFRS第9号」のように金融マーケットをベースにしているものがある。在庫を抱えるものづくりが中心の製造業にとって、なじみづらい点があることは理解できる。

 一方で、「日本が作った会計基準(日本基準)を放棄したくない」という考えで主張している人もいるのではないかと感じている。

IFRSの議論では歴史観も重要な要素

 日本と国際会計基準との間には、30年以上の歴史がある。にもかかわらず最近、IFRSの強制適用に慎重な姿勢を示す人たちの中に、IFRSの議論が2005~06年ごろに突然登場してきたかのように指摘する人がいるのも事実。IFRSと日本の関係を考えるうえでは、歴史観も重要な要素だ。

「企業側の準備が間に合わない」という意見もあります。

 日本では、IFRSと日本基準との差異をなくすコンバージェンス(収れん)が続いている。強制適用をしてもしなくても、コンバージェンスの結果として日本基準とIFRSとの差は小さくなる。8~9割は同じになるのではないかとみている。