四大監査法人の一つ、米デロイトで全世界のIFRS関連活動を統括し、IFRSや米国会計基準の策定主体に助言する立場にあるジョエル・オスノス氏は、IFRS対応コストを下げるには「早めの着手が最も効果的」と主張する。

写真●米デロイトのジョエル・オスノス パートナー
写真●米デロイトのジョエル・オスノス パートナー

IFRSや会計に関心を持たない経営層も少なくないようだ。

 IFRSの適用が自社にどのような影響を及ぼすかをできるだけ具体的に示し、リアルに感じてもらうことが大切だ。

 例えば、リースがバランスシート(貸借対照表)に載ってくる、研究開発費の一部資産計上が必要、固定資産の価値に関する評価が必要、といったことが自社の業務や税務、情報システムにどんな影響が出るかを示す。そうすることで、経営層に関心を持ってもらえると同時に、今後の課題が見えてくる。この作業は経理担当者と密に進める必要がある。

コストを気にして、IFRS対応の早期着手に二の足を踏む企業もあるようだが。

 ギリギリになって対応に着手するよりも、早めに計画を作り、予算を確定して進めたほうが結果的に効果が高くなり、コストは低く抑えられる。

対応が早いほどコストは下がる

 普段の生活と同じだ。ホームパ ーティーを開くとしよう。早くから計画を立てておけば、「部屋の掃除は自分たちだけでは難しいから、外部に頼もう」「食事はこれだけ必要だから、ケータリングも用意しよう」などと手を打てる。パーティーの前夜になって、いきなり準備を始めろと言われても「どうすればいい?」とお手上げになってしまう。

 IFRS対応プロジェクトに参加する社員には多くの場合、通常業務があることを忘れてはならない。ギリギリになってプロジェクトを始めようとすると、その人たちを一定期間、通常業務から切り離さなければならなくなる。その代償は大きい。早期に着手すれば、担当者は通常業務をこなしつつ、IFRS対応の作業を少しずつ進めることができる。

IFRS対応のコストを見積もる際の注意点は。

 「隠れコスト」に注意が必要だ。英語に「devil in the detail」という言い回しがある。コストが大きくかかる部分に眼が向きがちだが、見積もりが上ブレするのはもっと細かい、目に見えにくい部分のコストによる場合が多い。先ほどの情報システムの例も隠れコストを生む要因の一つだ。

 規模の大きな企業ほど、隠れコストが発生する可能性が高い。例えば多国籍企業の場合、関連会社がIFRSに対応しているにもかかわらず、その事実に気づかないケ ースがある。すると、IFRS対応が二度手間になってしまう。これも隠れコストの要因となる。

 ほかに人事への影響、税務への影響なども隠れコストの可能性がある分野だ。税務では、これまで税制面で優遇されていた取引が、IFRS適用により優遇の対象でなくなるケースがある。