2011年度に入り、本格的にIFRS対応プロジェクトを開始する日本企業が増えている。どんな企業がIFRS対応に成功し、どこでつまずくのか。四大監査法人の一つ、米デロイトで全世界のIFRS関連活動を統括し、IFRSや米国会計基準の策定主体に助言する立場にあるジョエル・オスノス氏に導入のポイントを聞いた。

IFRS(国際会計基準)対応に成功する企業に共通点はあるか。

図●IFRS 導入のベストプラクティスの例
図●IFRS 導入のベストプラクティスの例
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 世界各地で企業のIFRS対応を支援した経験から、いくつかのベストプラクティスが挙げられる。組織レベルでは「経営層ができるだけ早い段階でリーダーシップに関与する」、より詳細なレベルでは、「コスト効果がある導入を目指し、できるだけ早期に計画を作成する」などがある()。

ベストプラクティスをすべて実践している企業は存在するか。

 すべてを完璧に実践している企業はない。ただ、デロイトが支援している米国やカナダ、オーストラリアの企業で、かなり多くのプラクティスを活用しているところは存在する。いずれも非常に規模が大きい企業だ。米国でも、来年IFRSに対応しようと思えばできるくらいの段階まで来ている企業もある。

“明日”は決して来ない

逆に、IFRS対応に失敗するアンチパターンはあるか。

 会計を真剣に捉えない企業はIFRSにうまく対応できない。そうした企業は会計を単なる作業だと考えており、経理部門以外に影響を及ぼすとは思っていない。

写真●米デロイトのジョエル・オスノス パートナー
写真●米デロイトのジョエル・オスノス パートナー

 経営トップは「経理担当者がやればいい」と高をくくり、IFRSに関しても「明日やればいい」くらいに捉えている。しかし、その明日は決してやってこない。

 トップがIFRS対応のリーダーシップをとらない企業は、社内のコミュニケーションが悪く、かつ現在にしか目を向けない傾向が強い。こんな悲劇を目撃したことがある。IT部門がSAPやHyperionといったパッケージ製品のバージョンアップ作業を進めた。その際にIFRS対応を一切考慮しなかった。CIO(最高情報責任者)とCFO(最高財務責任者)とのコミュニケーションがとれていなかったからだ。

 バージョンアップが完了したところで、経理部門から「IFRSと自国基準の両方で財務諸表を作る必要がある」と言われた。新システムでは対応できず、追加の修正が必要になった。