今回の東日本大震災を契機に、災害情報発信の手段が速報性が優れている放送を中心としたものから、放送も含む多角的なデジタル展開へと大きな変化した。日本放送協会(NHK)、日本テレビ、TBS、フジテレビは「IMC Tokyo 2011」(2011年6月8日~10日開催)において、「震災とメディア ~ファイル化運用からSNS活用まで。各局における対応事例~」と題し、東日本大震災時に各放送局が実施したデジタルメディア対応事例と今後の課題について講演を行った。前編ではNHKとTBSの取組について報告する。

東日本大震災におけるNHKの対応

写真1●講演を行ったNHK経営企画局専任部長の元橋圭哉氏
写真1●講演を行ったNHK経営企画局専任部長の元橋圭哉氏
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写真2●NHKが開発した「スキップバックレコーダー」
写真2●NHKが開発した「スキップバックレコーダー」
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 日本放送協会(NHK)経営企画局専任部長の元橋圭哉氏は、はじめに「被災地には被災地の人々に必要な情報を伝えること、また被災地のことを心配する様々な世界中の人々に向けては被害の状況を伝えることが重要であり、あらゆる伝送路やあらゆる端末に向けて情報を伝えることが放送機関としての使命だと思っている」と語った(写真1)。

 NHKは、1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災では、ハイビジョン映像で全世界に震災の状況を配信した。また、発生時点に時間をさかのぼって映像を記録することができる「スキップバックレコーダー」で記録された地震発生の瞬間映像を全世界へ配信した。この装置は、偶然にも阪神淡路大震災発生の数カ月前にメーカーと共同で開発が完了し、震災発生の数週間前に神戸放送局に設置していたことから、大震災発生時の状況を映像として記録できたという(写真2)。

 今回の東日本大震災では、この「スキップバックレコーダー」で記録された地震発生の瞬間映像はもちろんのこと、全国約400台のお天気カメラとして利用しているロボットカメラが威力を発揮した。ロボットカメラは、ビルの屋上や海岸部、駅などに設置されており、今回のような大震災や大津波が発生した時に、人が立ち入ることができない場所からの映像を遠隔操作により撮影し、災害報道映像として利用した。

総合テレビの映像をライブでネット配信

 NHKでは、ロボットカメラの映像やヘリコプターからの映像、色々な場所を取材した映像など、今回の大震災の状況をテレビで克明に伝えていたが、被災地では停電により電源が確保できないことからテレビを見ることができないため、パソコンやスマートフォンで視聴できる環境を構築したという。特に、NHKでは今回初めての試みとして、「総合テレビの映像をそのままライブでUSTREAMやニコニコ生放送、Yahoo!へ提供した。このインターネットでのライブ再配信は、震災発生から2週間後の3月25日までの期限で実施し、USTREAMやニコニコ生放送、Yahoo!合計で約3200万ユーザーの視聴があった」と元橋氏は説明した。

 また、元橋氏は、USTREAMでのライブ再配信について、次の様に説明した。「USTREAMについては、偶然が左右したもの。大震災発生の20分後に、中学生がスマートフォンを使いNHKの総合テレビをUSTREAMで再送信していた。通常であれば、放送局の許諾を取っていないため、USTREAM側が停止処置を行うが、状況が状況なのでしばらく黙認していた。その後17時半過ぎにNHKへUSTREAM Asia代表取締役社長の中川具隆氏から許諾して欲しいとメールがあり、メールが届いてから30分後に、こういう状況なので良いですよと伝えた」。また、ニコニコ生放送については、ニワンンゴの杉本代表取締役から電話があり、ニコニコ生放送でのライブ配信も開始したと説明した。

普段利用されている情報端末や視聴習慣に沿って、情報を届けていくことが大事

 テレビ、ラジオの報道機関は、正確な情報を迅速に伝える以外に、詳細な情報をあらゆる伝送手段、端末経由で、被災地の人や離れた地域の人など、個別のニーズにあわせて様々な情報を一番的確な形で伝えていくことが重要となる。

 ラジオは電池で長時間使えるため、災害時に避難所などで重宝している。しかし、近年ラジオは普段使いの情報機器ではなかったこともあり、「どこにしまっておいたかわからない、電池の液漏れで使えない」など「発生直後は普段使いではない情報機器はいざという時に全く役に立たないうことがわかった」という。また、「震災発生直後には、ワンセグ端末が、携帯電話の一部機能で常に持ち歩いているツールであったこともあり、身近なメディアとして非常に役に立ったが、連続で2時間程度しかバッテリーが持たないことが今後の課題」と指摘した。

 最後に元橋氏は、「今後大きな災害が起きたときに、どのようにソーシャルメディアを活用し、被災地から情報を集めて発信していくかが大事になる」と述べ、検証するには時間がかかると思うと前置いたうえで、「報道機関の役割として、正確に詳細な情報を迅速に伝えることが重要であるが、インターネットのメリットを活用しながらより重層的な報道を心がけていく必要がある。もちろん、不確かな情報も多々みられたが、淘汰する力もユーザーの中に見られたため、役割分担を果たしながら、また知恵を借りながら震災報道を行っていくようにしたい」と今後取組むべき課題を語った。