1997年に英国から中国に返還された香港。中国返還後も一国二制度の下、中国本土とは異なる体制の下に発展している。ICT(情報通信技術)市場についても同様だ。シンガポールと並び、アジアにおける企業のハブ拠点となるべく、国際回線やデータセンターが充実している。

 シンガポールと並ぶアジアのハブ都市として機能する香港。特別行政区として、異なる政治・経済体制を持つ一国二制度の対象地域になっている。1997年まで英国領だったこともあり、中国本土のICT市場とは分けて考えたほうがいい。

 香港の市場調査WebサイトであるCompanyandmarkets.comによると、香港の企業向けICT市場は2011年予測でハードウエア販売が22億米ドル(約1800億円)、ソフトウエア販売が12億米ドル(約970億円)、システム構築を含むITサービスが15億米ドル(約1200億円)である。2015年にはそれぞれ27億米ドル、15億米ドル、19億米ドルに成長するとの予測だ(図1)。中国のなかでは成熟した都市といえる香港だが、ICT市場は依然として成長を続けている。

図1●香港の企業向けICT市場の規模
図1●香港の企業向けICT市場の規模
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 香港のICT市場には「地場メーカー」といえる企業がない。1997年まで英国領だった影響が大きく、レノボやファーウェイといった中国本土のICT機器メーカーを「地場のメーカー」とみなさない雰囲気が強い。様々なメーカーの製品を公平に比較して、条件の良いものを買おうという習慣がある。結果として、IBMやデル、ヒューレット・パッカード、SAPといったグローバル企業が強い。

 代表的なシステムインテグレータは香港資本ではPCCWソリューションズが挙げられる。香港最大の通信事業者PCCW(旧香港テレコム)の子会社で、日本でいうNTTデータのような企業だ。PCCW以外の通信事業者は、システムインテグレーションを手掛けていない。グローバル資本ではIBM、HP、フランスのエイトスオリジンなどが有名だ。

 上記4社の中でもIBMは特に存在感が強い。米系企業だけでなく、香港の地元企業、香港に進出した中国企業へのサービスでも強いプレーヤーとなっている。

 香港はグローバル企業のアジア地域統括会社や、グレーター・チャイナ(中国本土、香港、台湾を含めた経済圏)の地域統括会社が多数ある。金融や流通では日本やシンガポールと並ぶハブ都市だ。そのため、基幹系業務システムに長い歴史を持つIBMの活躍の場が多いと考えられる。

 中国を筆頭にアジア圏の著しい成長もあり、香港ではビジネス環境の変化が激しい。経営にはとにかくスピード感が求められる。業務システムも経営の変化に応じて素早く完成させられないといけない。複雑なカスタマイズを避け、標準的なパッケージやサービスを組み合わせて必要な機能を実現するのが、香港拠点におけるベストなIT投資になるだろう。