ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 自見庄三郎金融担当大臣による、事実上のIFRS(国際会計基準)“適用延期”につながる発言が波紋を呼んでいる。この発言の中で頻繁に登場したのが、米国の動きに関する言葉だった。

 米国の動きの中心が、SEC(米国証券取引委員会)が2010年2月に立ち上げたワークプランプロジェクトである。今後の日本におけるIFRSへの取り組みの方向性を考える上で、SECが実施しているワークプランプロジェクトの動きが参考となるのは間違いない。

 同プロジェクトについては、本連載で何回か取り上げてきた(米SECによるIFRS声明の意味SEC中間報告に見るIFRSに対する米国の姿勢)。今回は日本でのIFRS適用延期の議論を受けて、同プロジェクトの発足からこれまでの経緯を改めて追ってみたい。

「議論の始まりにすぎない」

 2010年2月24日、SECのメアリー・シャピロ議長が2009年2月の就任以来の沈黙を破り、IFRS導入延期を発表した。2011年中にIFRS採用に関して判断するという方針は変えないものの、2008年に出した強制適用(アドプション)の声明で打ち出していた2014年からの段階適用はなくなり、早くても2015年以降の導入となった。決定後、最低でも4年から5年の準備期間が必要というのが理由である。同時に、米国企業における早期適用も撤回された。

 発表時のプレゼンテーションで、シャピロ議長はIFRS導入延期の決定は「議論の始まりにすぎず、終わりではない」と語った。その具体策として発表したのが、SEC主導によるワークプランプロジェクトである。2010年10月に中間報告を出すこともコミットした。

 このあたりの動きは、日本の金融担当大臣の具体的な行動計画を伴わない談話発表とは大いに異なる。IFRS導入に対する米国の真剣さが感じられた。

 このプロジェクトの目的として、IFRSの基準に関する2項目と移行に関する4項目の計6項目を挙げている。

  1. 米国報告基準としてのIFRSの開発と網羅性および十分な適用可能性
  2. 基準開発の独立性(IASBの基準設定機関としての独立性)
  3. IFRSに関する投資家の理解および教育
  4. 会計基準変更によって生じる米国規制環境への影響
  5. 会計システムの再構築、契約書の変更、企業統治にかかわる規制、訴訟にかかわる規定対応などを含めた、大規模および小規模企業への影響
  6. 人的資源の整備(投資家、作成者、規制当局等の教育・訓練および監査人の体制など)

 中でも4と5に、訴訟社会である米国にIFRSをどう適用していくのかに関する懸念を示した表現が見られる。