スティーブ・ブランク氏のブログ翻訳版の第2回は、米国の感謝祭(11月の第4木曜日)に合わせて投稿されたもの。高い失業率など米国経済は低迷が続き、悲観的な見通しもあるなか、ブランク氏は今後10年が米国にとって「最良の10年」になるかもしれないと予測する。(ITpro)

 今年(2010年)の感謝祭は、いつもの年よりも感謝することが少ないと思うかもしれません。米国人の10人に1人は失業しています。米国は、自国製品の生産を海外企業にアウトソースすることをはじめ、破滅的な決定を繰り返してきました。常識的に考えれば、米国は間違った判断がもたらした結果に、自ら対処しなければなりません。現在、中国との間の貿易収支は赤字で、過去のつけが回ってきたと言えます。

 ある有識者は、アメリカン・ドリームは滅び、今後10年間に旧西側諸国、特に米国は凋落すると言っています。

 しかし、私はそうは思っていません。彼らの方が間違っている可能性が高いと思います。21世紀の第2の10年は、旧西側、特に米国にとって最良の10年になるかもしれません。

 私は次の10年間が、16世紀の科学革命、18世紀の産業革命と比肩する、経済革命の始まりだったと、将来考えるようになると信じています。我々は、アントレプレナー(起業家)革命の始まりに直面しています。今後の技術革新が起こることはもちろんですが、それだけでなく、この革命は現在我々が知っている事業経営を根底から変革します。さらに大切なのは、私たちの後継世代の生活の質を全世界規模で変革することです。

何かが起こっている。しかし、それは何か定かではない

 皆さんは、これまで起こったことについてはよく知っています。過去半世紀にわたってシリコンバレーは米国だけでなく、世界の技術革新の中心拠点でした。シリコンバレーは我々を驚かせ、我々をかつてないほど結びつけ、同時に分離し、事業経営をより効率化し、書籍販売やビデオレンタル、新聞など種々の産業分野を根底から変革しました。

 各種機器、ソフトウエア、バイオ技術、クリーン技術の製品などが、アントレプレナーとスタートアップ企業の文化の発祥地から、怒濤のごとく創り出されました。シリコンバレーは、種々の技術のるつぼで、以下のような画期的な創造を生み出しました。

  • スタンフォード大学における、冷戦関連の無線と電子技術の研究開発
  • スタンフォード大学の工学部長が、純学術研究よりもスタートアップ企業の創立文化を支援
  • 1950年代の冷戦関連の軍事と諜報への援助基金が、無線と軍需製品の開発を促進
  • たった1人のベル研究所員が、スタンフォード大学の隣で半導体企業を創設
  • 1960~70年代に多数の半導体企業が設立
  • ベンチャーキャピタル事業が、一つの専門事業分野として成立
  • 1980年代におけるパソコン革命
  • 1990年代におけるインターネット
  • 21世紀の最初の10年におけるインターネット・コマース事業の台頭

 シリコンバレーの行動パターンは明快です。過去に起こった新しい革新は、一定の期間を置いて、過去の均衡を打ち破るように起こりました。前の革新が収まったと思った時に突然、方向転換と急激な変革が起こり、新しい技術が現れるのです。

 スタートアップ企業による革新は続いていますが、技術革新の速度は、最近になって初めて明らかになった条件によって制約を受けるようになりました。この2~3年で初めて我々が気付いた、限界条件は以下のようなものです。

1)長い開発期間
2)最初の顧客を獲得するまでの高いコスト
3)ベンチャーキャピタル産業の構造(数に限りのあるベンチャーキャピタルが、スタートアップ企業に数百万ドルずつを投資するモデル)
4)スタートアップ企業を創設するための専門家(シリコンバレーやボストン、ニューヨークなどの地域に集中)
5)新規事業の不成功率(新規事業には成功の法則が無い)
6)公官庁と大企業が新技術を採用する速度が遅い