東日本大震災が起きた3月11日、東日本の広い範囲で鉄道の運行がストップしたため、数多くの人が職場から自宅に帰れない「帰宅難民」となった。東北地方や北関東では、高速道路を含む道路が多数寸断し、復旧物資の輸送が困難になった。
震災発生時には、交通網の大規模な不通が避けられない。東日本大震災は、一般社員が勤務中の午後2時46分に発生したため、帰宅難民が発生した。もし大地震が夜に発生したならば、今回帰宅難民になった従業員は、出社ができない「出社難民」になるだろう。
新型インフルエンザなどの感染症が都市部で大流行した場合などでも、従業員は出社できなくなる。そのような状況下でも、システムを継続運用できるようにしなければならない。
システム運用拠点は郊外に移せ
システムの運用拠点は本社の近くにあるのが良いというのが、今までの常識だった。いざという時に、担当者が駆けつけられるようにするためだ。東京都心に本社がある多くの企業が、東京都心のデータセンターを利用している。しかしBCPの視点に立つと、この常識は誤りである。
首都圏直下型地震が発生すると、東京都心は「陸の孤島」となってしまう。システムの運用拠点を都心に置くのは、リスクが高い。
東京都心が陸の孤島になるのは、警視庁が実施する交通規制のためだ(図)。首都圏直下型地震が発生すると、警視庁は災害復旧車両の通行を優先するために、多摩川、国道246号線、環状7号線で囲んだ地域の内側で、車両の通行を全面的に禁止する。該当エリアは東京23区の全区にまたがる。エリア内を移動するだけでなく、エリアに車で入ったり車で出たりすることもできない。
さらに、東京都八王子市や昭島市、福生市などを南北に走る国道16号線の西側から、都心方向への車両の進入も禁止となる。
国道16号線の東側では、東京都と神奈川・千葉・埼玉の3県との県境で、車両の出入りができなくなる。
東日本大震災でも、東北自動車道が閉鎖された。そのため、東北地方への物資の輸送や人の移動に支障が出た。それと同じ事態が東京で起きる。首都圏直下型地震でサーバーなどが損傷したとしても、しばらくはその保守部品を東京都心に運べなくなる。
担当者が都心に駆けつけるのも困難になる。首都圏直下型地震の直後は、鉄道が不通になるからだ。線路に物理的な損傷が無くても、安全が確認できるまでは運行は再開しない。担当者が電車を使って都心に駆けつけるのは不可能だ。交通規制があるので、自家用車やタクシーも使えない。
都心にシステム運用拠点を持つ企業の中には、「担当者を何人か、運用拠点に歩いて通える距離に住ませている」(日立電子サービスの向井克幸情報システム技術本部副本部長)ところがある。
それでも、担当者の緊急動員や、保守部品の輸送などに万全を期すなら、システムの運用拠点は都心から郊外に移転するのが望ましい。