「効率やコスト一辺倒のシステム構築はあまりにも危険」「ICTを自ら持たない方が、メリットがあるのではないか」---。東日本大震災は、ICTに対する考え方の再検討を企業のシステム担当者に迫った。

 日経BPコンサルティングが、企業の情報システム部門や経営系部門の勤務者を対象に5月に実施した「ポスト3.11時代のICT利用意識調査」によると、震災後は「集中」より「分散」、「所有」より「利用」を重視したいとする人が増加した。

 本連載の第3回では、大震災がICTの基本方針に及ぼしたこうした影響を紹介する。これらの変化は、システムの在り方や、技術/ソリューションのニーズにも大きな影響を与えていくだろう。

「集中」支持者が20ポイントの大幅減

 今回の調査では、ICTの基本方針について7種類の観点から意識の変化を探った。それらの観点の1つが、ICTシステムの設計に当たり「集中させて投資や運用の効率を高める」か、「システムを分散させてリスク回避を図る」かというポイントだ。

 コストや作業効率の点から見ればICTは集中させるのが得策で、近年のサーバー統合や仮想化関連技術の進展も、集中を促進した。しかし、災害対策などのリスク回避の観点から見れば、十分に距離が離れた拠点に分散している方が望ましい。こうしたトレードオフについて、大震災前の考え方と、大震災後の変化を調べたところ、大震災が「集中」のリスクを強く意識させたことが分かった。

 大震災前については「集中」支持者が58.2%と多く、「分散」支持者はわずか10.9%だった(図1、情報システム部門回答者)。ところが大震災後(調査時点)になると、「集中」支持は38.4%で、震災前に比べて20ポイントも減少している。一方、「分散」支持は23.5%で13ポイント増えた。

図1●ICTの基本方針(集中か分散か)の震災前後における変化
図1●ICTの基本方針(集中か分散か)の震災前後における変化
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 こうした意識の変化は、多少の差はあるものの企業規模によらず見られる。従業者1000人以上の大企業の場合、「集中」支持者は、64.5%から40.2%へと減少。299人以下の中小企業でも、49.5%から34.5%に減った。また、情報システム部門だけでなく経営系部門の回答でも同様な傾向が見られた。

 ただし考えが変わった人も、「分散しさえすればよい」というほどの極論に至ったわけではなさそうだ。回答者に、震災後の方針で進めるうえでの課題や懸念を尋ねたところ、「分散を進めたいがネットワークコストをもっと安く」「中途半端な分散は非効率」といった意見が寄せられた。震災前後とも「やや集中」を選んだ回答者からは「集中させた個所を複数持つなど、集中と分散を織り交ぜた考え方が必要」という指摘もあった。