ITベンダーにて、ネットビジネスの提案を準備中
ダメな“システム屋”の会話 若手“システム屋” 「先輩、ちょっといいですか。提案の件です」
先輩“システム屋” 「A社のダイレクト取引の件だったっけ?」
若手 「はいそうです。従来チャネルの販売に加えて、インターネットを活用して顧客にダイレクトにアプローチしようというテーマです」
先輩 「確か、単にウェブサイトを構築するだけではなく、様々な考慮点も含めて提案してほしいという話だったよな」
若手 「そこなんですよ。お客様からは、『これまでの会計・事務合理化と違う初めてのことだから、色々教えてほしい』って聞かれてるんですけどね」
先輩 「で、どう答えるつもりなの?」
若手 「いや、私らだって初めての経験ですから、何を考えて良いのやら分からないんですよ」
先輩 「ありゃりゃ・・・」
若手 「先輩、いつも教えてくれてるじゃないですか。howだけじゃなくてwhatやwhyも考えろって」
先輩 「そう、“システム屋”はhowばかりを考えがちだからな」
若手 「しかし、ダイレクト取引をやるって顧客が既に決断しているわけですから、whatもwhyもないと思うんですよ」
先輩 「そんなことはないだろう」
若手 「だって、競合B社がダイレクト取引をやるからA社もやるんだ、ってお客様の経営陣が意思決定済みなんですよ。なぜやるとか、何をやるとか、そういうのはすっ飛ばされているんですよね」
先輩 「そんなことはないだろう。しょうがないなあ、もうひとつヒントをあげよう。what ifを考えてみたらどうだ?」
若手 「what ifですか?」
先輩 「そうだ。もしこういうことが起きたらどうなるだろう、という問題設定だな」
若手 「それがダイレクト取引にどう関係があるんですか?」
先輩 「まあ焦るな。一緒に考えてみようじゃないか」

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ダメな理由:howばかりを考える

 海外動向を話題にした前回(第44回)とは趣向を変えて、今回はダメな“システム屋”、平凡な“システム屋”で終わらないための発想法について書きます。

 目の前にある業務を合理化したい、事務にこういう問題があるのでそれを解決したい。こうした課題をぶつけられ、その解決策を提示するのは“システム屋”の仕事です。「ソリューション」ともよく言われます。しかしそれだけの“システム屋”は、「これをやったらどうなるかを考えてほしい」と言われると、全くの無力になってしまう可能性があります。想像力のない“システム屋”です。

 昔の“システム屋”には、想像力はあまり必要なかったかもしれません。むしろ目の前にある業務をきちんと分析して、網羅的にケースを考えることができる論理思考力が重要だったでしょう。「客観的で冷静な分析をするべき時に、想像力なんて邪魔になるだけだ」というこだわりを持っている人さえいました。

 しかし今“システム屋”が呼ばれる案件では、単に業務を合理化するだけ、という案件は昔ほど多くはないでしょう。冒頭の会話のように、ユーザー企業がインターネット活用という新しい領域に踏み出そうという時には、情報システムを作る以外に一体何を準備しておけばよいのかという疑問を持つはずです。こうした疑問に対して無知な“システム屋”は、言われた通りにウェブサイトを構築するだけの存在に成り下がってしまいます。そのウェブサイトは、顧客にとって使いにくいものになりがちです。