モバイルWiMAXからLTEへ---米クリアワイヤに次ぐ世界第2位のモバイルWiMAX事業者ロシアのヨタは戦略を変えた。対抗規格のLTE展開で中心的な役割を担う。今回はヨタ主導での進展が予想されるロシアにおけるLTE展開の最新動向について解説する。


 ロシアのヨタは2011年3月3日、国内の4事業者向けに全国規模の卸売りLTE(Long Term Evolution)ネットワークを構築すると発表した。2014年までに20億米ドルを投じてLTEネットワークを180都市で展開。ロシア全人口の約半分に当たる7000万人をカバーすることを当初目標に掲げた(表1)。

表1●ロシアのモバイルWiMAX事業者「ヨタ」の概要
表1●ロシアのモバイルWiMAX事業者「ヨタ」の概要
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 ヨタはLTEネットワークの卸売り先として、携帯事業者トップ3のMTS、メガフォンおよびヴィンペルコム、そして国営長距離通信事業者ロステレコムの4社と契約を取り交わした。このトップ3はロシアの携帯電話加入者数、約2億2000万人(2010年12月時点)の80%超を押さえている。そのためヨタがロシアにおけるLTE展開の成否を左右する重要な鍵を握ることになるだろう。

ロシア政府が後ろ盾

 モバイルWiMAXのみを手掛けてきた新興事業者が、大手携帯事業者を取り仕切りLTE展開の中心に立つといった事例は世界でも類を見ないものであり、ヨタのビジネスモデルは稀有なものだと言える。同社は2013年末までに現行のモバイルWiMAXネットワークを停止する計画。このとき約75万人のモバイルWiMAX加入者を自社顧客としてLTEへ移行することになれば、卸売りに加え小売りも手掛けることになる。

 どちらかといえば小規模事業者のヨタが今回、自らの交渉力のみで大手各社の巻き込みに成功したとは考え難い。国営企業のロシアン・テクノロジーズが、ヨタの株式25.1%を保有していることから、合意形成には政府も相当の影響力を及ぼしたと考えられる。契約締結の場にプーチン首相がアテンドしていたという事実からも、政府の後ろ盾があったことは明白だろう。

 なお、ヨタの主たる資金の調達先候補として政府系銀行やこのロシアン・テクノロジーズが挙がっており、今後の展開においても政府の関与が想定される。

 ヨタがLTEへの転換を表明したのは2010年5月のこと。このとき、ヨタ所有のモバイルWiMAX向け周波数をLTEへ転用することを認めないとする規制当局との間で対立が生じた。2010年8月にはカザンでLTEネットワークの運用を開始したものの、わずか3日で停止した。今回のヨタの取り組みは、政府の承認の下で進められていることから、既存周波数を活用した同社によるLTEネットワーク構築が正式に認められたことになるだろう。

 世界の携帯市場では昨今、事業者同士がネットワークの共同敷設と共用を目的として、ジョイントベンチャーを設立するケースが増えている。ヨタのビジネスモデルは自社単独でネットワークを構築し他社に提供するという卸売り方式であり、従来のネットワーク共用の形態とは異なる。しかし卸売り先が事前に確定していることからネットワーク共用に近い側面もある。

 ヨタは当面の間、現状の企業形態を維持したままネットワーク構築を進めるものの、当初計画のLTEネットワークが完成する2014年以降は卸売り先の4事業者各々に対し同社の株式20%を取得できるオプションを与えると宣言している。そのため最終的にはヨタ自体が、他国で見られるようなネットワーク共用を目指した事業者の共同出資によるジョイントベンチャーに変容する可能性がある。