総務省 情報通信審議会の電気通信事業政策部会 電話網移行円滑化委員会は2011年6月10日、関係事業者によるヒアリングを実施した。ヒアリングは2回予定しており、この日はNTT東西地域会社、KDDI、ソフトバンクグループ、イー・アクセス、STNetら通信事業者が意見を述べた。

 最初にNTT東西が、PSTN網からIP網へのマイグレーションについての考え方と、移行に伴う各サービスの取り扱いについて説明した。両社はマイグレーションを「PSTN網のIP網への移行」と「アクセス回線のメタルからFTTHへの移行」の二つに分けて説明した。このうちPSTN網については2020年頃から移行を開始し、2025年頃に完了予定である。またアクセス網については、需要に合わせてFTTHに移行するが、メタルを使い続ける利用者も一定数残ることは避けられないと説明した。

 IP網への移行に当たっては、PSTN網上で第三者が提供しているサービスと同等のものを提供できるように、なるべく代替手段を用意する方針である。ただし全く同じネットワーク・サービスではないことから、IP網への移行に伴い利用者端末の交換などが必要になることもある。NTT東西はPSTN網とIP網の併存期間を長く設けることで、端末の更改時期に網を切り替えられるようにし、端末交換などの費用負担を避ける方針である。

 先に総務省が実施した意見募集で、IP網への移行に伴ない影響を受けるとして、具体的な対応を求められていた「決済システム」や「信号監視通信サービス」「緊急通報」などについて、NTT東西はIP網上で利用できる代替手段を紹介した。例えば「ISDN+INSネット64」の組み合わせで提供している決済システムは、「フレッツ光+データコネクト+ひかり電話ナンバーゲート」の組み合わせで代替できるという。同様に「信号監視通信サービス」を使って提供しているセキュリティーサービスは、「フレッツ光+インターネット(またはIP-VPN)」や、携帯電話機を使って代替可能とした。

 また、現在PSTN網を介して接続している各社のIP網同士を直接接続することについて、関係事業者による調整の場を6月24日に開催することも明らかにした。

概括的展望は情報開示が不十分と接続事業者

 KDDIは、NTT東西が先に示した「概括的展望」では情報開示が不十分であるとし、「個々のサービスについていつまでに終了し、どのような代替サービスを準備するのか」「代替サービスを用意する場合の具体的な移行方法や料金などの利用条件」――などを示すように求めた。また、今後の検討で取り上げる項目として「レガシー系サービス(PSTNやドライカッパなど)の接続料抑制」「コロケーションスペースの十分な確保」を挙げた。

 ソフトバンクグループは、マイグレーションに関する基本的な考え方として、網と回線の移行を同時に行うことで作業を加速すると同時に、PSTN網とIP網双方の維持に必要なコストを削減するという、これまで同社が主張してきた案を再び提案した。IP網への移行期にある現在は、接続ルールが未整備でレガシー網の競争環境が後退しているとし、マイグレーションに際しては接続ルールなどの早期確立が必要と指摘した。また検討すべき具体的な事項として、「IP-IP接続のあり方」「IP網における番号ポータビリティ」「IP網における接続メニューの設定」「レガシー接続料算定の見直し」――を示した。

 イー・アクセスは、「ラインシェアリングの導入」と「PSTN接続料の上昇抑制」「IP網化にともなう相互接続の課題整理」が重要とする考えを説明した。特にラインシェアリングの導入によりNGNでもフェアな競争環境を確保できないと、PSTNからNGNへの移行が進捗するに従い、自動的にNTTグループのシェア(市場占有率)が拡大するという危機感を示した。IP網間の接続については、拙速に取り組むことで日本独自の仕様となり、国際的な電話網との接続に影響が出る可能性を指摘し、総務省やNTT、接続事業者を交えて慎重に検討することを求めた。

 今回、唯一の電力系通信事業者としてヒアリングに参加したSTNetは、NTT東西の通信網が持つ「ハブ機能」と、「緊急通報」に関する課題について、検討するように求めた。STNetでは他の通信事業者と接続する際に、多くのトラフィックを効率的に疎通するためにNTT西日本のPSTN網を経由しており、その割合は2010年度の発着信トラフィックの約40%に上るという。IP網への移行に当たりこのハブ機能が提供されなくなると、国内の電話事業者間で相互接続方法を大規模に見直す必要があり、事業者に与える影響が大きいという。また警察や消防、海上保安庁などへの緊急通報は、NTT東西のPSTN網を利用していることから、今後のマイグレーション方法によっては各社サービスから緊急通報への接続に大きな影響があると指摘した。

需要減によるコスト上昇は、網移行の動機になる

 委員による議論では、マイグレーションの進め方について質問があった。慶応義塾大学教授の井出秀樹委員は「NTT東西がコアネットワークとアクセス回線のマイグレーションを分けて検討しているのはなぜか」と質問した。これに対しNTTは「コアネットワークはIP化が進んできていると同時に、設備耐用も2025年までとはっきりしているので、まずはここから対応を進めたい」と説明した。またアクセス回線のマイグレーションについては「ユーザーの動向を見ながら考える必要があり、現時点でいつ移行すると判断するのは時期尚早」と答えた。

 東京大学教授の相田仁委員は、「アクセス網が今後どうなるかは、接続事業者が事業計画を立てる上で重要な判断要素。移行スケジュールを早く公開し、インセンティブを与えて移行を推進するなどの取り組みが必要ではないか」と指摘した。これに対しNTT東西は「2025年という期限に向けて、計画的に交換機を取り替える。2020年を待たずに、順次切り替えを進める」と答えた。

 井出委員は、イー・アクセスなどがPSTNの需要減少に伴う接続料の上昇を押さえるべきだと主張していることについて、「需要が減ってコストが上がるのは、経済学的には当然のこと。PSTNの接続料が上昇すればIP網移行のインセンティブとなる効果もあり、必ずしも接続料の上昇を抑制する必要はないのではないか」と意見を求めた。イー・アクセスは「考え方は様々だが、長期間じわじわと価格を上げるのが本当にいいのか。コストを下げる方法もあるのではないか」と答えた。