ARMコアを使うプロセッサが、半導体メーカー各社から登場しているのは第1回で説明した通りだ。それらの基本的な設計は、英国に本社を置くARMが行っている。ARMは、工場を持たないばかりか、自社ではプロセッサを製造しない。アーキテクチャを策定し、コアを設計してそれを他社にライセンスするだけなのである。半導体業界では、こうしたライセンスで取り扱われるものを「IP」(Intellectual Property。日本語では知的財産権と訳されるが実際には、知的財産権として保護されるものを指す)という。

 半導体メーカーの形態に「ファブレス」というものがある。これは、自社内で半導体の設計のみをして、製造は外部の企業に委託して製品を作る半導体企業のことだ。半導体の製造プロセスが微細化し、製造設備や研究に多額のコストがかかるようになってから、自社で半導体を製造する企業は減り、多くの企業がファブレスとなった。

 パソコン系では、米Intelは自社工場でCPUを生産するのに対して、米AMDは、以前は自社の設備であった製造工場を売却し、現在は製造を外部に委託するファブレス企業となっている。

 一方のARMは、外部の企業に販売する製品の製造を委託するわけではない。具体的なプロセッサを製造するのは、ARMとライセンス契約を結んだ他の半導体メーカーだ。ARMはプロセッサを設計し、こうした企業にIPをライセンスするだけで、デバイスの製造も販売もしない。

ARMからライセンスを受けて半導体メーカーが実装

 ARMからのライセンスにはいくつかの形態があるが、通常は、コアの設計を利用する形態が多い。スマートフォンの説明書などに出てくることがある「Cortex-A8」などというCPUコアの名称は、ARMが設計したプロセッサコアの名称である。このほか、コア設計を改良できるライセンスや、ARMアーキテクチャを使うが独自の実装を行えるようなライセンス形態もある。

 例えば韓国Samsung Electronicsは、Cortex-Aシリーズを採用し、自社ブランドでSoCを製造・販売している。だが、同じCortex-Aシリーズを採用する他社製品よりも高いクロック周波数などを実現している製品もある。これはおそらく、製造プロセスや改良によって、より高いクロック周波数を実現しているのだと思われる。

 また、携帯機器用のチップセットメーカーである米QualcommのSnapdragonシリーズのCPUコアは「Scorpion」と呼ばれ、「ARMv7-A」相当ではある。だが実装は独自で、Cortex-Aシリーズとはパイプラインや浮動小数点のハードウエアなどが違っている。

 このほか、半導体の製造を請け負うファウンダリー企業が、ARMのライセンスを持たない顧客向けにカスタムデバイスを製造するためのライセンスや、半導体のデザインのみを請け負う企業向けのライセンスなどもARMでは用意している。