「キー、キー」---。甲高いオオハッカ(九官鳥の一種)の鳴き声で目が覚める、ここは赤道直下の常夏の島シンガポール。赴任して半年が過ぎた。9年前まで、霧の街ロンドンに8年間ほど赴任していたが、それ以来の海外生活だ。シンガポールは、とにかく暑い。1年を通して平均気温は26度以上。日中は30度を優に超える。

 そしてそんな気温以上に熱いのが、シンガポール経済だ。2010年のGDP成長率は過去最高の15%を記録した。港はコンテナが山積みでモノが溢れ、町のショッピングセンターは、購買意欲の盛んな人々でごった返している。

 シンガポールは国土が東京23区とほぼ同じ面積と狭いながらも、1980年代以降、金融と貿易で急速に発展した小さな経済大国である。国土がユーラシアプレートの内陸部にあるため、地震がなく、周りをマレー半島やインドネシアの島々に囲まれている。そのため、日本のように津波を含む自然災害のリスクが少ない。

 町を見渡しても、地震への配慮はほとんどない。船を乗せたような形をしたビルや、バナナのように反った高層ビルなど、日本ではとても信じられないような構造のビルが立ち並んでいる。また至るところで住宅用、企業向けビルの建設ラッシュが続いている。

インフラ整備によって外国企業を誘致

 シンガポールは政治的にも安定しており、電力、通信回線、水道などのインフラも充実している。

 そんなシンガポール政府は、IT分野のインフラ整備に乗り出している。充実したITインフラで、外国企業を誘致しようとしているのだ。

 その一つの策が「次世代ブロードバンド通信ネットワーク整備」。これは民間集合住宅への光ファイバー網接続を義務化、2012年半ばまでに接続率95%を計画するという野心的なプロジェクトである。

 さらには「データセンター・パーク整備計画」も進行中だ。こちらは、敷地面積が12万平方メートル、30万~40万台のサーバーが運用可能なデータセンターを2014年に完成させようと建設が始まっている。

 このような政府の後押しもあって、最近では東南アジアへ進出を検討している日本のコンテンツ関連企業やシンガポールを東南アジア地域の統括拠点にする企業から、シンガポールのデータセンターを利用したいという相談を受ける機会が増えている。東日本大震災後は、事業継続性から利用を検討する企業も出てきている。

 今、シンガポールはヒト・モノ・カネ、そして情報のハブとして、急速にアジアの中での存在感を増していることを実感する。シンガポールから、日系企業をサポートすることで日本が元気になるよう、貢献していきたい。

中村 哲也(なかむら てつや)
KDDIシンガポール シニア・ダイレクター。2010年10月より現職。1994年から8年間ロンドンに勤務。2002年から、KDDI auモバイルを活用したモバイルソリューションの開発を担当。昔はギネス、今はタイガー・ビールが一日の締めくくり。