Q1 リスク低減のため業務を分散するには?
A1 ハコとヒトに冗長性、ライバルとも協力

 業務の効率性を追求し、機能を1カ所に集中させたが、その拠点が被災すると業務が完全にストップしてしまう─。今回の震災では機能集中のリスクが改めてクローズアップされた。

 近年、カルビーのように間接部門をシェアードサービス化して1つの拠点にまとめる企業が増えていたが、「今後は東西に拠点を分割するなどして冗長性をある程度確保することも検討すべきだ」と、あらた監査法人(東京都中央区)リスク・コントロール・ソリューション部の宮村和谷代表社員は話す()。

図●機能分散の例と実施に必要な備え
図●機能分散の例と実施に必要な備え

 シェアードサービスの分割には、「コールド・スタンバイ」と「ホット・スタンバイ」の2つのパターンがある。情報システムの二重化にも使われる用語だが、前者は業務を行う拠点とは別の地域にオフィスとネットワークを用意し、災害時に人と業務を移管できるように備えるものだ。

 集中による効率化のメリットと、業務を継続できる環境の確保を両立できるが、災害時に社員がけがをするなどの人的被害が出ると業務継続が難しくなる。後者は東西の拠点で業務を並行して進め、どちらかが被災した場合には、もう片方に業務を移管する。より冗長性が高く、コストもかさむ。

 「どちらの場合も、資料や書類などの電子化を進め、双方の拠点で同じ環境で仕事ができるようにすることが必要」と宮村氏は指摘する。

企業機密を守りながら補完関係を築く

 生産機能の分散については、アイリスオーヤマのように全工場で同じ商品を生産すればリスクは低減できるが、効率性は犠牲になる。またそもそも生産拠点を複数持てない中小企業では難しい。

 こうしたケースでは、社外のパートナーとの代替生産も選択肢の1つとなる。横浜市のめっき加工メーカー羽後鍍金と大協製作所は、2009年に互助協定契約を結び、どちらかが被災して生産不能に陥った場合、もう片方が代替生産を行うことにした。両社の立地は横浜市の海岸沿いと内陸部に分かれ、大協製作所は福島県矢吹町に第2工場を持つことから補完関係を築きやすかった。

 競合関係にある企業同士が代替生産を行うには、被災時に限って技術などの機密情報を開示する「エスクロー契約」などが必要となる。羽後鍍金と大協製作所は代替契約の契約書に「横取り防止」を明記した。例えば羽後鍍金が被災し、取引先A社からの受注分を大協製作所が代替生産しても、羽後鍍金の復旧後は、大協製作所はA社との取引を継続してはいけないというルールを作った。

 今回の震災では大協製作所の福島工場を含む3工場とも被災しなかったため、代替生産は実施していない。BCPに詳しいNKSJリスクマネジメント(東京都新宿区)の小池一徳コンサルティング部長は、「代替生産契約の例は少なかったが、これを機に真剣に検討する企業が増えるのではないか」とみている。