計画停電や福島第一原発の放射能漏れ事故など、東日本大震災は東北地方や北関東だけでなく首都圏も巻き込み、企業の事業活動に甚大な損害をもたらした。特に企業を悩ませたのが計画停電だった。多くの企業が事業計画の練り直しを迫られた。ここまでの事態を想定して事業継続計画(BCP)を立てていた企業は恐らく皆無だろう。とはいえ、策定していたBCPが役に立たなかったのかというとそうではない。ヤマト運輸はBCPという「備え」を生かし、影響を最小限に食い止めた。

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写真1●ヤマト運輸の筧清隆・前品質向上推進部長
写真1●ヤマト運輸の筧清隆・前品質向上推進部長

 3月17日午後6時20分頃、神奈川県愛川町にあるヤマト運輸の中間物流拠点「厚木ベース」への電力供給が途絶えた。福島第一原発の事故などを受けて、東京電力が3月14日から実施していた計画停電の対象地域となったのだ。

 この時間帯は荷物の仕分け作業がピークを迎える。このため電力供給が滞ってしまうと、作業の大幅な遅延を招きかねない。大規模な遅配が起きれば、顧客からの信用を失う。仮に自家発電装置を用意したとしても十分ではなく、複数ある作業ラインのうちの1つを動かせるかどうかの電力を確保するのが精いっぱいだ。

 計画停電という「想定外」の事態に直面したヤマトだが、BCPという備えを最大限に生かすことで「顧客への影響を未然に防いだ」(筧清隆品質向上推進部長:4月16日よりヤマトフィナンシャル執行役員東京統括支店長/写真1)。特定のベースが機能しない状況に陥っても、近隣のベースで仕分け作業を継続できる仕組みを整えていたからだ。実際、厚木ベースへの電力供給が再開した午後9時20分までの約3時間、厚木ベースに持ち込む予定だった荷物を、同じ時間帯に計画停電の対象から外れていた西東京や静岡、神奈川など4カ所のベースに振り分けた。

 計画停電の影響は仕分け作業だけにとどまらない。厚木ベースは同じ建屋内に、集荷依頼など顧客からの問い合わせを受け付けるコールセンターを備える。計画停電で電力供給が途絶え、このコールセンターも機能しなくなった。

 ベースの場合と同様、コールセンターでも事前の備えが功を奏した。問い合わせの電話を別のコールセンターに振り分ける「受電分散」の仕組みを使ったのだ。これによって、「停電による影響などを心配したお客様から、12月のピークに匹敵する件数の問い合わせがあったが、十分に対応できた」(筧部長)。

 なぜヤマトは事業継続の要であるベースやコールセンターが機能を失うリスクを想定して準備を進めていたのか。背景には、2009年に新型インフルエンザの爆発的大流行(パンデミック)というリスクが顕在化したことなどがあった。