民放キー局は2011年5月9日から5月19日にかけて、2010年度(2011年3月期)決算説明会を順次開催した。各社の経営陣は、東日本大震災が自社の事業に与える影響や、2011年度の経営方針についてそれぞれ述べた。

番組制作費

 2012年度の番組制作費については、各社の対応が分かれた。日本テレビ放送網と東京放送ホールディングス(TBSホールディングス)、フジ・メディア・ホールディングスが前年度比でほぼ横ばいもしくは削減の方針を打ち出す一方で、テレビ朝日とテレビ東京ホールディングス(TXHD)は増額を決めた。「我々の目標である2013年度のプライムタイムの視聴率1位に向けて足場を固める」(テレビ朝日)、「番組を強化して、ほかのメディアに流れてしまったM3(50歳以上の男性)とF3(50歳以上の女性)を取り戻す」(TXHD)とそれぞれ理由を説明した。ほかの民放事業者も「闇雲に制作費を下げることはない」(フジ・メディアHD)という。

事業多角化

 各社は2011年度において、放送外収入の増加に向けてそれぞれ取り組みを進める。例えばフジ・メディアHDは、「フジテレビ On Demand」を中核とするデジタル事業の収入を「少しでも早く現在の40億円規模から100億円規模に育てたい」としている。日本テレビも「強靭な経営基盤を築くためには放送外の収益源が不可欠」とする。テレビ朝日は、自社グループ全社員を対象に、「ビジネスチャレンジ案」を募集中である。選考を経て、事業化を図る。

 TBS HDは、自社傘下で販売・小売り事業を手がける子会社の大株主であるJ.フロントリテイリング傘下の百貨店との連携を深めるなど、「今期の収益に貢献する形で業務提携を行っていく」という。さらに、子会社が日本でのビジネスの権利を持つキャラクター「Suzy’s Zoo」を絡めた事業を推進したい考えである。

コンテンツ・マルチユース

 テレビ朝日は編成部に新設した「総合戦略班」を中核にして、コンテンツの多メディア展開を推進する。さらに「ビジネスプロデューサー」を制作現場に置いて、BSやCSを含めたあらゆる流通路を使ってコンテンツを展開する。フジ・メディアHDも、コンテンツをBSやソーシャルメディアなど、複数のメディアに積極的に展開する方針である。「コンテンツを多重展開すれば結果的にコストカットにつながる」としている。

海外展開

 海外事業については、多くの民放キー局がアジア市場での事業展開に意欲を示した。TXHDは中期経営計画(2011~2013年度が対象)の基本方針の一つに、「アジア市場を重視した国際戦略」を挙げた。2011年4月には国際戦略室を新設し、アジアなどの海外への番組販売を推進するための体制を整えた。「近くて大きな市場である中国や韓国に打って出たい」という。子会社のディノスを通じて台湾の通販事業者への商品供給を行っているフジ・メディアHDは、「中国と台湾を拠点にしてアジアでの事業展開を進めたい」としている。

BS放送事業

 TBS HDは、2011年7月1日にBS-TBSを子会社化する。これにより民放キー局5社のうち3社が、系列のBS放送事業者を子会社することになる。既に子会社化を済ませているTXHDは、BSジャパンの2011年度における番組制作費を2010年度の金額(25億3300万円)から8億5800万円増やす。「BS放送における接触率向上の競争は続いている」という考えから、より多くの金額を番組制作に投入する。

 フジ・メディアHDも、今年の秋にはBSに新チャンネルが立ち上がることを受けて、BSフジの番組制作費を増やす。さらに、「フジテレビとBSフジの連携をさらに強化する」としている。一方で日本テレビは、系列BS局の子会社化に必要な認定放送持ち株会社の設立について、「BS放送のためだけに設立を決めるわけにはいかない」としたうえで、「BS局との距離感と関係をどうするのかは今後の経営の命題になっていくだろう」と述べた。

東日本大震災の影響

 2011年3月11日の東日本大震災の発生を受けて、民放キー局は数十時間~数日間にわたり、CMなしで災害報道を行った。その後も災害報道を中心とした番組編成を行ったことにより、レギュラー番組が放送されずタイム広告が流せない事態が発生した。この影響を受けて、民放キー局の広告収入は数億円~20数億円減ったという。