IFRS(国際会計基準)適用延期をどう考えるかを関係者・識者に問う緊急特集。第4回は、花王で会計財務部門を統括する三田 慎一取締役執行役員の意見を披露する。「IFRS対応プロジェクトを止めるつもりはない」とする三田氏は、グローバルな物差しが必要であると主張する。(編集部)


 花王は2010年にIFRSへの取り組みを本格的に開始した。2011年2月には「IFRS導入プロジェクト」を発足し、財務・経理部門に当たる会計財務部門から、販売や研究開発、工場といった現場までを含む活動に広げている。2015年度のIFRS適用開始を目標として、現在はグループでIFRSに基づいた会計処理を実施するための「花王グループ経理規程」の作成を進めている。

 以下、当社におけるIFRS導入プロジェクトの責任者として、今回のIFRS適用延期を巡る動きについて感じるところを少々述べてみたい。

「グローバルな物差し」は必要

 自見金融担当大臣の談話を聞いて、正直なところ、「えっ」と驚きを覚えた。IFRSを適用せずに済ませてしまうという事態には、まさかならないであろうが、「また遅れてしまうか」との思いがある。

 そもそも日本でIFRSを適用する目的として、グローバルな会計の物差しを作っていきたいということがあったと考えている。当社を含む上場企業は証券市場、広い意味での金融市場の中で生きている。その中では当然、グローバルな比較がなされる。現在の当社の外国人持ち株比率は46~48%程度。国内市場の外国人投資家比率も高まっている。国内での事業が中心の企業であっても上場している以上、その企業はグローバルな存在であると言える。

 こうしたグローバルな証券市場に参加している日本企業の1社として、IFRSというグローバルな物差しの適用が遅れることは大きな懸念材料であると捉えている。グローバルな物差しがないと、特に外国人投資家に対して決算の数値を“翻訳”して説明する手間が生じるからだ。

 現状でも「のれんの償却を除くとこうなる」「その場合、償却の金額はこの程度になる」などと、常に前提条件を付けて説明しなくてはいけない煩わしさがある。共通の物差しがないと、決算の数字をそのまま単純に比較できるものにはならないからである。こうした説明は手間がかかるだけでなく、余計な誤解を生むことにもつながりかねない。

 もう一つの懸念はIFRSの適用延期によって、グローバルな市場における日本市場の地位が一段と低くなってしまうのではないか、ということだ。外国人投資家やアナリストが集まるミーティングに参加すると、証券市場での日本株の地位がものすごく下がっていると感じる。以前は日本株はアジア株とは別格と見られていた。現状では、アジア株の一つとみられている。

 もちろんIFRSへの対応は、労力の面でも資金の面でも簡単ではない。大変さは我々も痛感している。IFRS適用による影響を緩和するという意味では、時間の猶予が与えられたのは良かったのではないか。

 ただ、外から見たときにそれがどう評価されるかは別の話である。2012年に適用が決まる場合、「5~7年の準備期間」ということは、適用が2019年からになることもあり得る。そんな悠長な態度でいいのだろうかとも思う。

 最も怖いのは、「米国がやらないから、日本もやらなくていい」という結論になることだ。そういうことではないだろうと思う。日本は日本でIFRSの適用を進めていかないと、グローバルな市場の中での相対的なポジションがどうしても低くなってしまう。むしろ日本はこうするんですと積極的に、かつスピード感を持って進めていかないとまずいのではないか。