IFRS(国際会計基準)適用延期をどう考えるかを関係者・識者に問う緊急特集。第3回は、ビジネスブレイン太田昭和の中澤 進氏の意見を披露する。今回の導入延期は「会計あるいは会計情報の持つ役割や機能を改めてじっくり考えてみる好機になる」と中澤氏は主張する。(編集部)


 最近の米SEC(証券取引委員会)の動きや、IFRSの策定主体であるIASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国財務会計基準審議会)との合同プロジェクトの動きなどを見ていると、日本でのIFRS導入延期に関する議論は自然の流れであるし、時間の問題であったとも言える。

IFRSを積極的に“米国ナイズ”して取り込もうとするSEC

 米国における最近の動きを振り返ってみよう。2010年2月、SECはIFRS適用延期を発表した。当初は「2009年12月15日以降の事業年度からIFRS任意適用を認め、2014年から段階的に適用する」としていた。これを任意適用の案は撤回し、適用は2015年以降とした。同時にSECが主体となったワークプランプロジェクトを立ち上げ、IFRSの米国への取り込み方に関する具体的な検討を開始した。

 そして2010年10月の中間報告では、「アドプション」という言葉は「インコーポレート」に置き換わった。同報告では、各国・各地域のIFRS採用の方法を十分に検討し、EU(欧州連合)は「エンドースメント」、中国は「コンバージェンス」によるもので、共にアドプションではないと言い切っていた。米国はこの時点で「アドプションはしない」と言っていたのと同義である。2011年5月26日のSECの経過報告書はこの延長線上にある。目新しいのは、既に非公式には使っていた「コンドースメント(コンバージェンス+エンドースメント)」という表現を正式に使用した点である。

 この報告で「5~7年」という表現があり、それをもって米国がIFRS導入を先送りしているとする報道がある。だが、昨年以来のSECレポートを読む限り、決してそうではない。SECはIFRSを積極的に“米国ナイズ”して取り込もうとしている。そこに5~7年かけると言っているのである。FASBに対し、IFRSの開発に深く関与させようとしているのはこのためであろう。

 言い換えると、米国はIFRSの使用者から作成者へと、その立場を変えようとしていると見受けられる。IASB/FASB合同プロジェクトの遅れは、この辺りの米国の巻き返しの強烈さの表れであろう。

 翻って日本では、2009年の中間報告(我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告))で連結先行の方針を表明して以来、東京合意に基づくコンバージェンス(収斂)は着々と実施してきたものの、2012年のIFRS導入方法の最終判断へ向けて作業を進めてきたかどうかは少々疑問である。実質的には単体財務諸表についての議論しかなされていないように思える。

 日本は結局、2011年中に米国が行うと宣言していたIFRS採用方法の判断を待っていたのではないだろうか。そして米国の最終結論は出ていないものの、今回の自見大臣の談話や、企業会計審議会での議論に至ったのである。

 いずれにしても、日本での2015年3月期のIFRS強制適用はなくなった。2012年に最終判断を行うとして、IFRSの導入が義務付けられるのは2017年3月期から2019年3月期になると読み取れる。この辺りのタイミングは、最終的には金融庁 企業会計審議会の結論待ちになるが、大きくは動かないであろう。

 であれば規制当局および各企業にとって、今回の導入延期は会計あるいは会計情報の持つ役割や機能を改めてじっくり考えてみる好機になるのではないかと思う。