IFRS(国際会計基準)適用延期をどう考えるかを関係者・識者に問う緊急特集。第2回は、IFRS導入プロジェクトを支援するアビーム コンサルティングの永井 孝一郎氏の意見を披露する。永井氏は「IFRS完全適用以外に選択肢はない」とすると同時に、「企業が自由にIFRSを早期適用できるよう条件を緩和すべき」と訴える。(編集部)


 自見庄三郎金融相が2011年6月21日の閣議後記者会見で語ったIFRS適用延期にかかわる談話が各方面に大きな波紋を呼んでいる。これまで、2009年6月の金融庁中間報告*1と同年12月の内閣府令*2にもとづき、地道にIFRS導入準備を進めてきた日本企業はもとより、それを支援してきた監査法人、IT業界などにも激震が走った。

 本稿ではこの金融相発言を受けて、IFRS適用の延期が企業にどのような影響を与えるか、また、企業は今後どのように対応すればよいかについて私見を述べたい。

*1 2009年6月30日「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」(金融庁企業会計審議会)
*2 2009年12月11日「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令)

アドプションの場合、IFRSと日本基準とのねじれ解消が不可欠

 2011年6月30日に開催された金融庁の企業会計審議会では、この金融相発言を踏まえていくつもの可能性が挙がった。報道を読んで混乱してしまった読者も少なくないだろう。

 しかし、実際のところ、今後の選択肢は限られている。すなわち、時期は遅くなるものの既定方針通りIFRSを完全適用(丸飲み:アドプション)するか、それともこれまでの方針を変更して日本基準をさらにIFRSに近づけ(コンバージェンス)、両者間の実質的な差異を無くすかの2通りしかない。

 前者のアドプションには、適用対象企業の範囲を縮小するというオプションもある。後者のコンバージェンスは、米国がこの方向になりそうなので*3、わが国でも検討の遡上にのぼっている。ちなみに、中国はIFRSに倣って制定した新会計準則をすでに適用していることから、この方式に近い。GNP世界第1位の米国と第2位の中国がコンバージェンス方式であれば、第3位の日本も同方式でかまわないのではないかとの発想があってもよい。

 アドプションは既定路線の通りであるため、現在想定されている以上の混乱が発生することは考えにくい。大震災の影響ということで、適用延期について対外的にも説明しやすいだろう。

 ただしその場合は、連結決算はIFRS、単体決算と税務は日本基準というねじれ現象を、当局が一刻も早く解消もしくは緩和する必要がある。そうしないと、企業の会計処理にかかわる負担はとてつもなく重く、二重指標による様々な経営管理上の不都合も解決されない。

 なお、アドプションとする場合、強制適用する企業の範囲を「グローバルに活動する企業」に限定する意見がある。あるいは、IFRSを適用する新市場を創設するという意見もある。しかし、そもそも海外展開の度合いを測る公正妥当な指標などは存在せず、新たな混乱を招くだけだ。また、同業種の同規模企業であっても証券市場によって会計基準が異なるというのでは、一部のプロを除けば企業業績を理解できなくなってしまう。

*3 2011年5月26日「米国SECスタッフペーパー」によると、米国は、米国財務会計基準審議会(FASB)と国際会計基準審議会(IASB)で進めている基準共通化作業(MoUプロジェクト)の成果を自国の会計基準に取り入れるとともに、共通化作業の対象外となっている基準も今後5~7年の間に組み込む方針である。ただし、今後新たに出てくる基準の取り込みについては個別判断となる。米国ではこれをコンバージェンス(収斂)ではなく、インコーポレーション(組み込み)と呼んでいる。