自見庄三郎金融担当大臣による、事実上のIFRS(国際会計基準)“適用延期”につながる発言が波紋を呼んでいる。今回の動きをどう捉えればよいのか、これから何をすべきかを、関係者・識者による緊急寄稿から探る。第1回は国際会計研究の第一人者である関西学院大学商学部 教授の平松 一夫氏の意見を披露する。平松氏は「IFRS適用への歩みを止めてはならない」と主張する。(編集部)


 予言が的中してしまった。2011年6月17日、韓国・済州島で開催された韓国会計学会で、私は「日本は東日本大震災をも理由に掲げて、IFRSの適用に関する姿勢を変更すると思われる」と予想してみせたのである。日本でIFRSのアドプション(強制適用)に対する反対論が頭を持ち上げ始めたこと、米国がコンドースメント・アプローチ注)を提唱したことが予想の根拠である。

注) コンドースメントはコンバージェンスとエンドースメントを合わせた造語。コンバージェンスはIFRSと既存の会計基準との差異を無くすこと、エンドースメントはIFRSを自国の基準として承認する手続きを経て導入することをいう。米国はIFRS導入にあたり、両アプローチの併用を打ち出している。

政治主導ではなく迷走

 帰国して早々の6月20日、読売新聞朝刊を見て驚いた。私の懸念が現実のものになってしまったのである。

 とは言え、IFRSをめぐるそれまでの日本の狼狽(ろうばい)ぶりを見ていると、そのような事態になると考えるのは私にとって当然であった。何しろ、当初はEU(欧州連合)に、続いて米国に追随し、IFRSの議論を主体性なく展開してきた日本である。米国の姿勢の変化と大震災を口実に、節操なくIFRSの適用を延期しようとするであろうことは、私には容易に予想できたのである。

 むしろ私が驚いたのは、6月21日付の日本経済新聞夕刊の記事であった。それによれば自見庄三郎金融担当大臣は、6月30日に予定されていた企業会計審議会での審議を待たずに考えを表明したというのである。さすがに日経もこれを「異例」としていた。

 私の目には、この動きは政治主導ではなく、政治の迷走としか映らない。先の金融危機の時に、EUが金融商品の会計基準を手続き無視で変更させたことを、日本は強く批判した。今度はその日本で、手続き無視の表明がなされたのである。これは断じて政治主導などというものではない。