by Gartner
スティーブ・プレンティス VP&ガートナーフェロー
堀内 秀明 リサーチVP

 最近話題の「ビッグデータ」とは、利用可能な情報の量が指数関数的に拡大するという、今後の展望を表した言葉だ。ガートナーでは、ビッグデータはシステム部門にとって試練である一方、ユーザー部門にとってビッグチャンスであると分析している。

 ビッグデータの例を示そう。米グーグルは、月間900億回というWeb検索のために、毎月600ペタバイトのデータを処理している。グーグルが処理するビッグデータは、単にボリューム(量)が大きいだけではなく、多様であり、複雑で、急激に増加するという特性を持っている。グーグルはビッグデータのために、独自のデータ処理技術を自社開発した。一般企業がこれまでと同じやり方でビッグデータに立ち向かうのは困難だ。

 もっとも近年は、分散バッチ処理ソフト「Hadoop」のような新技術が台頭することで、一般企業がビッグデータを有効活用するための下地が整ってきた。ビッグデータの活用によって、何が実現可能になるのか、シナリオを示そう。

 政府などの公共部門は、交通情報や、電気・水など資源の利用量を詳細かつリアルタイムで分析できるようになり、より効率的な公共サービスの提供が可能になる。さらに政府は様々な角度の情報を解析することで、天災や人災の予測が容易になり、災害時の物資輸送や人命救助を強化できる。

 小売業は、顧客の嗜好や行動に影響を与える要素について、より高度な分析が可能になり、増収や在庫の適正化につながる。運輸業や物流業は、輸送ルートの最適化によって、燃料消費の効率化や顧客サービスの改善を果たせる。

 一般企業のマーケティング部門は、ソーシャルメディアの分析によって、顧客同士がどのように影響し合っているかを把握できるようになり、営業活動の強化につなげられる。

 ヘルスケア企業は、統計学的手法の活用によって、医療従事者が自らの専門知識だけに頼って患者を診断するのに比べて、より正確に診断・治療できるようになる。電力や水道などの公共企業は、提供サービスの利用パターンを分析することによって、需給のコントロールができるようになる。

 ネット企業は、購買履歴から顧客が好む商品を分析するレコメンドエンジンの適用によって、顧客の「ついで買い」を喚起しやすくなる。金融機関は、金融商品のリスク評価の精度を高めることで、顧客に最適な金融商品を提供することが可能になる。

 警察や防犯サービス事業者などは、様々な情報提供元からもたらされるデータから犯罪に至るパターンを見つけ出す精度を高め、より正確で信頼できる防犯活動が可能になる。

 今後、CIO(最高情報責任者)の役割は、業務システムを維持して他の事業部門をサポートするという受動的なものではなく、ビッグデータの中からチャンスの芽を探し出し、ビジネスを拡大するという能動的なものにシフトする。

 ビッグデータへの投資をリスクと見なすCEO(最高経営責任者)も多いだろう。ガートナーは今後5年以内に、ビッグデータがあらゆる産業に大きな影響を及ぼすと予想している。CEOはビッグデータから目を背けてはならない。