あらゆるものがデジタル化されてきた今、ITを介したトランザクションのすべてが“ログ”として残るようになっています。とにかく溜まっていくログですが、視点さえ明確にもって解析すれば、自ずと色々と“語り出す”のです。第1回では、人の振る舞いは「動き」と「動かし」に大別されること、「時間と空間の軸」で分析していくことで、特定の振る舞いをあぶりだせることを説明しました。今回は、ログが持つ“証拠力”と、 ログの“語り口”について説明します。

事件の早期解決策としてログが表舞台に

 世間を賑わす大事件において、ログが話題になるケースが増えています。最近も、大相撲の八百長問題では、消されたはずの携帯メールの受発信ログを、わずかに残っていた磁気から掘り返すことで、犯行の軌跡があぶり出されました。尖閣諸島沖で海上保安庁が撮影した映像がYouTubeに流出した事件でも、YouTubeに記録されたIPアドレスから、投稿された神戸市のネットカフェを特定し、店の防犯カメラから元保安官を容疑者として特定しています。

 少し前になりますが、2010年度末に起こった京都大学入試事件の犯人追跡の過程については、報道番組のみならず朝・昼のワイドショーでも詳細に解説されました。「IPアドレスとは何か」について時間を割いた番組も少なくありません。この事件で予備校生が特定された過程を詳しく見てみましょう。

 この事件では、“証跡”が残されていました。予備校生が携帯電話からヤフー知恵袋に投稿した際の接続記録です。証跡には、インターネット上の住所に当たる彼の携帯電話のIPアドレスが含まれています。

 そのIPアドレスから、電気通信事業者である携帯電話会社やインターネット接続業者であるプロバイダーが特定できます。そこから直接証拠として、事業者との契約書から契約者名や住所をつかみ、京大入試願書と突き合わせることで、氏名が一致した予備校生が浮上してきたのです。

 間接証拠としては、ログの中にある時刻という軌跡を追跡しています。試験開始直後に投稿が開始されていること、その試験中に解答を受信していることから、事件発生時刻に、その予備校生が携帯発振地域の受験会場で、ネットを通じたカンニングしたことが明らかにできたのです。

 これらの例のように、最近の犯罪捜査では「Geolocation(ジオロケーション)」という考え方が当たり前になりつつあります。無数に存在するログを使えば、証跡が示す空間軸を通して場所を割り出せますし、軌跡が示す時間軸を通して、ある時刻にその場所に存在したということが証明できます。ログを活用し、容疑者を特定するわけです。

システムが持つ膨大な量のログデータも証拠に

 何が証拠になるのかは、海外の法律に対して日本の法律は非常に広い解釈をしているようです。民事訴訟法では原則、あらゆるものに証拠となり得る資格(証拠能力)があるとし、民事訴訟法247条(自由心証主義がり裁判官の確信)や、証拠方法の証拠価値(証明力)の自由評価をうたっています。

 情報システムが持つ膨大な量のログデータも、証拠として大きな意味を持つわけです。つまり、ログにも「証拠力」があり、犯罪捜査における証拠固めにおいても大きな威力を持つようになってきたのです。

 例えば、常時ネットワーク接続というサービスについての利用契約を考えてみましょう。同サービスの利用契約者が、「ネットワークに接続できなかった」とか、それによって「ネット決済ができなかった」といった利用侵害の被害を訴えたとします。

 被害者だと訴えた原告(常時接続サービスの契約者)は、自分の権利が侵害されたことを証明するためには、「その時間帯に、そのサイトに、アクセスしていたが接続できなかった」と言うことを自ら証明しなければなりません。そのために、プロバイダーにアクセスログの開示請求などを行うでしょう。

 一方、訴えられた被告(サービスプロバイダー)は、「契約者がアクセスしてこなかったこと」を、保全したログのすべてを駆使して反証しようとします。ログを保有することは、訴える側にとっても、訴えられる側にとっても身の潔白を証明するための重要な証となります。

 ちなみに、アクセスしたことを証明する場合は、1度でもアクセスに成功した記録があれば容易に事実を明らかにできます。しかし、アクセスしていなかったことを証明する場合は、すべての時間においてアクセス記録が“不存在(存在していない)”であることを証明することになります。

 このとき、10分ごとにアクセス記録を取っていれば、10分後の時間においてアクセスしていない事実を明らかにすることはできます。しかし、10分後の真ん中にある5分後にもアクセスしていなかったという事実を明らかにはできません。ログでは、「あったこと」を証明するのは容易ですが、「なかったこと」を証明するには困難さを伴うことがあります。