東日本大震災からそろそろ100日がたった。連日の報道によれば、いまだに被災地の復旧や復興はまだ途上にあるようだ。福島第一原発事故から飛散した放射性物質を心配している人も多い。

 そのような状況下で、ストレス対処もかねてお酒を飲む人が多いようだ。極端な例だが、宮城県警の統計によると、宮城県内の飲酒運転事故は東日本大震災以降、増加傾向にあり、 河北新報の報道によると同県警では「震災のストレスで飲酒の頻度や量が増えている」と分析しているという(「交通事故の発生状況と死亡事故の特徴」2011年5月末版)。

 そこで今回は、飲酒はメンタルヘルス上、本当に良いのかという視点で考えてみたい。

寝付きは良くなるが、睡眠の質は下がる

 東日本大震災では、大きな揺れが遠く離れた京葉、京浜地区にも繰り返し生じ、液状化現象などを引き起こした。このためオフィスに宿泊せざるを得ない“帰宅難民”を大勢生んだ。

 することもないのでオフィスで酒盛りをしたという人もいる(もちろん、それどころではなかったという人もいただろう)。不謹慎と受けとる向きもあるかもしれないが「腹をくくって酒盛りをした」という人たちには、たくましさも感じられる。不安や心配を分かち合い、復旧に向けて結束を強められただろうと思う。

 こうした有事に限らず、ふだんからお酒を飲むのが好きな人もいるだろう。また、深夜まで残業した後の手っ取り早い気晴らしには、お酒が一番と思っている人もいるだろう。

 しかし、実際にはストレス解消としてお酒を飲んでも、あまり効果はないのである。

 よく知られているように、アルコールには睡眠を促す作用があり、お酒を飲むと寝付きが良くなる。ところが、そうして早く寝付いても朝、目覚めたときのコンディションがむしろ悪くなることは、あまり知られていない。お酒を飲んで寝ると、睡眠が浅くなって疲労が回復しにくいのである。

 おまけにアルコールを飲み過ぎると、脳に影響して、気分を“うつ”的にしてしまう。典型的な例として、うつ病の人がお酒を飲むと症状が悪化する。せっかく職場復帰できたのに、大酒を飲んで再発し、再び休職になってしまう人が少なくない。

 もちろんお酒を飲むことには、良い面もある。人間関係における潤滑油のようなもので、前述したようにチームワーク強化に有効な面もある。飲みながら胸襟を開けば、復旧作業などへの動機付けや、連帯感を高めることもできる。

毎日飲むようになれば危険

 ただしお酒を飲むことの善しあしは程度による。お酒を毎日飲むことは、疲労の蓄積を助長する。既に復旧・復興などで忙しい人たちは、本当はあまりお酒を飲まないほうがよい。

 睡眠による疲労回復が不十分だと、健常な人でも、日中の作業におけるミスや、居眠り、それに伴うトラブルや事故の可能性が高まる。復旧や復興に努力すべきときに、損失をもたらしてしまう恐れもある。

 また、アルコールには依存を起こす傾向がある。依存とは端的に言って、それが無いと過ごせない状態のことだ。特に、自宅で深夜にお酒を飲みながら独りで過ごすことは、その晩の睡眠による疲労回復を妨げるだけでなく、酒量の抑制が利かなくなる心配がある。

 依存には精神的なレベルと身体的なレベルがあり、後者まで進むと、禁断症状が出るようになる。また、お酒のせいで身体を傷めることもある。例えば、アルコールによる肝炎や膵臓炎にかかって入院するようなケースだ。

 依存症が進むと、家庭や社会的な暮らしも壊してしまう。酩酊しているために欠勤や遅刻を繰り返すようになり、仕事を失うことになる。酩酊しているときに事件や事故に巻き込まれることにもなり得る。

 前述したように飲酒運転との関連もある。飲酒運転をして検挙された人にはアルコール依存を持つ人が多いことが近年指摘されている。ご存じのように飲酒運転には厳しい処分がくだされる。雇用側も当人に厳しい対応を行うのが常だ。

 復旧や復興に立ち向かっている人たちには、ぜひ、お酒と正しく付き合っていただきたい。そのために、次のようなことに注意してほしい。

  • 毎日、毎晩はお酒を飲まないこと。飲むのは隔日や休日だけというようにする
  • それでも毎日、毎晩、飲まずにいられないなら、医師に相談してみる
  • 飲酒以外のストレス解消法を考え、実践する
  • お酒を飲む場合には独りで飲まない。職場の仲間や友人、家族と生産的な会話ができる状態で飲むようにする

 今回の大震災による、日本経済や企業の事業活動への影響は数年にも及ぶと予想されている。震災から3カ月以上たった今、復興への道のりを順調に歩んでいくために、コンディションを維持するのはとても大切だ。ストレスが多い今の時期こそ、お酒のたしなみ方に十分注意することを忘れないでほしい。


亀田 高志(かめだ・たかし)
産業医大ソリューションズ
代表取締役社長・医師
亀田 高志(かめだ・たかし) 1991年産業医科大学卒。大手企業にて11年間産業医を務める。産業医科大学講師を経て、2006年10月、同大学による産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。職場のメンタルヘルス対策を専門とし、コンサルティングと研修講師を手がける。著作は『できる社員の健康管理術』(東洋経済新報社)『人事担当者、管理職のためのメンタルヘルス入門』(東洋経済新報社)『メンタルヘルス対策実務マニュアル』(日本能率協会総合研究所)『18歳からのメンタルトレーニング』(メディア総研株式会社ほか)『メンタルヘルス・マネジメント(改訂版)』(労務行政研究所)など。