民主主義社会では、あらかじめ決めたルールの範囲内ならば、何をやっても許されるのが原則だ。しかし日本社会では「みんなと一緒」というモラルが優先され、たとえルールを守っていたとしても社会的に批難されることがある。筆者である政策研究大学院大学の岡本薫教授はこれを「日本的モラリズム」と定義し、その存在を前提にしたマネジメント手法「Ph.P」を考案した。本書は、Ph.Pの概念を一般のマネジャーに向けて解説した一冊だ。
従来からある「PDCAサイクル」手法を使ってマネジメントをする場合、最初の「Plan」を策定する際に、「論理」と「主観」が入り交じった複雑な意思決定が必要になる。まずは、現状をもたらした原因を「論理的」に分析し、それを解決するために「主観的」な目標を設定。その上でさらに、目標を達成する手段を「論理的」に選定する。
ところが日本的モラリズムが作用すると、原因分析や手段決定の論理的な判断に「モラル」という主観が入ってしまう。Planの段階ですでに失敗しているため、ステークホルダー全員が合意する計画は実行不可能なものになってしまう。心当たりがある方も多いだろう。
Ph.PではPlanの段階を「現状把握」「原因特定」「目標設定」「手段選択」「集団的意思形成」という、論理と主観が混在しない五つのステップに分類し、日本的モラリズムによりPlanが骨抜きになるのを防ぐ。
さらに、「手段実施の確保」と「結果と目標の比較」の二つのステップを追加し、プロジェクトの実行前、実行中、実行後の各段階でこの七つのステップを実行すれば、マネジメントは成功すると説く。
筆者は日本人の組織行動特性を踏まえたうえで、Ph.Pという論理的フレームワークを構築した。この点が非常に興味深い。日本の実態には合わないとされるPMBOKのようなフレームワークを、個別プロジェクトに対してどのように適用すればよいかのヒントにもなる。
なぜ日本人はマネジメントが苦手なのか
岡本 薫著
中経出版発行
1575円(税込)