社外に置かれたクラウドサービス会社のメールシステムを社内用として使う以上、採用に当たっては、既存のメールデータの移行や、移行後の運用、社内ユーザーの利用環境(利便性など)、セキュリティの確保など、考慮しなければならない点がたくさんある。

 クラウド型メールサービスに移行すると、自社運用(オンプレミス)であれば簡単に設定できていたことが、できなくなることがある。サービスプラットフォームを自社以外のユーザーとも共用するモデルなので、ある程度は画一的な仕様に合わせる必要もある。

 機能面についても、オンプレミスのメールシステムには及ばない点があると考えた方がよい。導入事例が多いGoogle Appsを使っても、「社内に設置したExchangeサーバーやNotesサーバーで実現できていたことすべてをカバーできるわけではない」(Google Apps導入支援サービスを手がけるベイテックシステムズの原口豊代表取締役)。Google Appsにもカレンダー(スケジューラー)機能やワークフロー、ドキュメント管理機能などはあるが、専用サーバーソフトには一日の長がある。

採用検討のステップは3段階

 重要なのは、自社サーバーに作り込んできた設定や運用方針のうち変えたくないポイントは何か、あるいは、変わってしまっても受け入れられるかどうかを明確にすることだ。この際、セキュリティポリシーとユーザーの利用環境の二つに分けて考えると分かりやすい(図1)。

図1●クラウド型メールサービスの採用や選定に際して考慮すべき項目
図1●クラウド型メールサービスの採用や選定に際して考慮すべき項目
サーバーの運用管理を事業者に委ねることになるため、性能面・機能面ではサービスの仕様に合わせなければならなくなるケースがある。セキュリティポリシーやユーザーの利用環境についての要求条件は、あらかじめ明確にしたほうがサービスを選定しやすい。
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 例えばセキュリティポリシーに関しては、「社内LANを経由せずに直接インターネットを介してクラウド型メールサービスにアクセスする際も、認証は送信元IPアドレスの確認だけでよいか」「誤送信防止機能は必要か」などを考える。ユーザーの利用環境については、「Webブラウザー以外のクライアントソフトも使いたいか」「メールボックスやメール1通当たりの(最大)容量はいくつにするか」などを確認しておくとよい。

 採用を検討するクラウド型メールサービスに、求める機能がない場合は、API経由で連携できるソリューションの併用を視野に入れる。ただし、外部サービスを組み合わせれば、1アカウント当たりの利用料金は高くなる。クラウド導入によるコスト削減効果は、その上で判断する必要がある。

 このように、クラウド型メールサービスの採用に当たっては、検討のステップは3段階で進めるとよいだろう。(1)自社のセキュリティポリシーのうち変えたくない点と変えてもいい点の洗い出し、(2)ユーザーの利用環境に関して変えたくない点と変えてもいい点の洗い出し、(3)運用のしやすさやコストをオンプレミスのメールシステムと比較---である。(1)と(2)の順序は逆になってもかまわない。