電話やFAXと並んで、企業ユーザーのコミュニケーション手段として欠かせない電子メール。そのシステム運用を外部に任せようという機運が高まっている。米グーグルの「Google Apps」(同サービスはGmailやスケジューラーなどで構成)をはじめとする、クラウド型メールを社内向けに使うのである。

 クラウド型メールの魅力は、大容量のメールボックスを低料金で利用できることと、初期投資や運用負荷を軽くできることである。クラウド型メールは、自社運用(オンプレミス)に比べて、大勢のユーザーがコンピューティング資源を共有するため、コスト効率が高い。このため、「自社でメールサーバーを運用すること自体が、本業の競争力につながるわけではない」と考える企業の採用例が目立ってきた。代表的なアーリーアダプターとして、ユニ・チャームや東急ハンズ、ガリバーインターナショナルなどが挙げられる。

 現時点でメールサーバーをオンプレミスで運用する企業の中にも、「次回のサーバー更新時には、費用削減のためにクラウド型の利用も検討するだろう」(繊維メーカーのシステム担当者)といった声が増えている。

 さらに、こうした企業に向けたクラウド型メールの機能も品ぞろえも、ぐっと充実してきた。先行するGoogle Appsに対して、料金面でも機能面でもキャッチアップが進み、選択肢が増えた。

環境の急変が管理コストの増大を加速

 メールシステムのクラウド型メールへの移行に、企業の注目が集まる背景を整理すると、大きく三つ考えられる(図1)。

図1●運用の手間やコストの増大を抑える目的で、多くの企業がクラウド型メールを利用し始めている
図1●運用の手間やコストの増大を抑える目的で、多くの企業がクラウド型メールを利用し始めている
メール環境を安定的に稼働させるために求められる機能や作業が増加し続けている。その対策としてクラウド型メールが有力な候補になってきた。
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 まず、(1)スマートフォンやタブレットなど社内のパソコン以外の端末からの利用や、海外からの接続など、メールの利用シーンが多様化している。日常業務のメールへの依存度も高まるばかりだ。次に、(2)内部監査やグローバル展開などに合わせた24時間365日の運用体制や信頼性の確保のために、運用の手間とコストが増大している。さらに、(3)ウイルスや迷惑メールの対策に加え、メールの誤送信防止など、より高度なセキュリティを導入する負荷が増大している。

 中でも、ここに来てクローズアップされているのが、(1)の端末の多様化だ。クラウド型メールは、基本的にインターネットにつながる環境さえあればどこからでも使えるため、出先で使うには便利である。しかもスマートフォンなどを利用する場合、「端末のストレージ容量が少ない」「セキュリティを考えて端末にデータを持たせたくない」といった理由から、メールデータを端末に保存させずサーバーに残すことへのニーズが高い。

 こうした利用環境を自力で実現しようとすると、リモートアクセスなど社外からメールサーバーに安全に接続する仕組みを整えるとともに、受信メールをサーバー側に保存するためにハードディスクを大量に用意しなければならない。