IT業界でプロとして活躍するには何が必要か。ダメな“システム屋”にならないためにはどうするべきか。“システム屋”歴30年を自任する筆者が経験者の立場から、ダメな“システム屋”の行動様式を辛口で指摘しつつ、そこからの脱却法を分かりやすく解説する。(毎週月曜日更新、編集:日経情報ストラテジー

ITベンダーでの「戦略」に関する議論
ダメな“システム屋”の会話 ダメな“システム屋”課長 「専務、ちょっとよろしいですか」
専務 「うむ。そうだ、昇格おめでとう。これからは事業を推進する立場になるね」
ダメ課長 「はい、実はそのことで相談です。リーマンショック以降、売上高が伸び悩んでいます。たまにコンペ案件があっても、低価格を仕掛けてくる競合他社がいて、当社にはなかなか勝ち目がありません」
専務 「その通りだね」
ダメ課長 「そこで、これまでの横展開の方針を変えて、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)化した商品とし、最初から低価格で提供しようという戦略を考えています」
専務 「なぜ、そう考えた?」
ダメ課長 「うちの部では、A社向けに開発した物流情報システムの横展開を考え、同業他社に売り込んできました。しかし同業他社は軒並みIT投資予算を抑制しているとのことで、なかなか受注に至りません」
専務 「ふむ」
ダメ課長 「そこで、ASPとして低価格で提供すれば売れるのではないかと」
専務 「なるほど。それでは聞くが、この業界で、ASP等で提供することによって売り上げを伸ばしたITベンダーの事例をどのぐらい知っているの」
ダメ課長 「え、といいますと?」
専務 「ASP化するという戦略はITベンダーなら誰でも考えられることだよな。どこかに成功事例や失敗事例があるんじゃないのかな」
ダメ課長 「あ、えっと、その、まだ調べていません。これから調べます」
専務 「それでは別の質問だが、君はスーパーマーケットで買い物をすることがあるかな?」
ダメ課長 「はい、割とよく行く方です」
専務 「価格を下げたことによって売り上げを伸ばしていると感じた商品に気づいたことがあるかな?」
ダメ課長 「いや、安かろう悪かろう、というか・・・むしろ品質が向上したり、おいしくなったものの方が伸びている気がします」
専務 「それと同じじゃないか。一般消費者と同様、企業も、価格さえ下げれば需要が伸びるという時代はとうに過ぎたのかもしれないぞ」
ダメ課長 「・・・確かに」
専務 「誰にでも思い付くようなものを戦略とは呼ばない。もう少し考えてから、もう一度、今後の戦略について話し合おうじゃないか」
ダメ課長 「はい、分かりました」

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ダメな理由:個性が無ければ、戦略ではない

 多くの“システム屋”はユーザー企業・顧客企業の要件・要望を具体化する役割を担ってきました。しかし不景気になると、ユーザーから要望が寄せられること自体が減ります。

 “システム屋”は要望を待っているだけでは仕事になりませんから、仕方なく、「過去にA社から来た要望はB社など同業他社でも同様であるはずだ」と考えます。いわゆる“横展開”です。

 しかしながらA社ほどの強くて切実な要望を持たず、しかも不景気で予算も限られる状況では、B社はなかなかその提案に乗ってこないでしょう。それならば価格を下げてみてはどうか、ということでASPサービスなどを企画する・・・よくある話です。私自身も、ここ数年、あちこちでこのような話を聞きました。

 この思考パターンは誰もが思いつくものです。まれに成功するITベンダーがいたとしても、残念ながら失敗する方が多数派でしょう。

 なぜならば、この思考パターンは「これは売れる!」というものではなく、「このように売れれば採算が取れる」あるいは「採算を取るためにはこのように売らなければならない」という考えから帰結したものだからです。

 こうした“消去法”的な思考パターンは、到底アイデアと呼べるレベルではありません。もちろん戦略などとは呼べません。