2011年3月11日の東日本大震災直後、影響を受けた東北・関東一円では携帯電話による音声通話とメールがほとんど使えなくなった。企業が利用する携帯メールを使った安否確認システムでも、翌日の朝になってメールが届いたりしたサービスがあった。

 携帯電話では、音声通話とデータ通信(パケット通信)のチャネル(電波)は分かれている。「音声通話は地震を検知すると自動的に通信規制するうえ、地震直後から通話が殺到してつながりにくくなった。しかし、パケット通信は通信規制はしなかったし、使えないという状況ではなかった」。KDDIの大内良久技術企画本部モバイル技術企画部通信品質グループリーダー担当部長は言う。

 パケット通信のチャネルが混雑していないのにメールが受信できなかったり、配送が遅延したりしたのはなぜか。KDDIの場合、メール送受信の仕様によるものだという。

 メールを送信する場合、送信側の端末がメールサーバーに対してメールを送り、受信側の端末がメールサーバーからメールを受け取る、というプロセスを経る。パケット通信チャネルは混雑していなかったため、送信側の端末からメールサーバーへのメール送信は、ほとんどが成功していたという。

図1●KDDIの携帯電話による電子メールが届きづらくなっていた理由
図1●KDDIの携帯電話による電子メールが届きづらくなっていた理由
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 問題はメールサーバーと受信側端末の間の通信だ。携帯メールをリアルタイムに受信させるため、メールサーバーがメールを受け取った段階で、受信側端末に対して着信通知を送る。受信側端末は着信通知を受け取ると、メールサーバーに接続してメールを受信する。ポイントは、着信通知には「ショートメッセージ」を利用することだ。ショートメッセージは音声チャネルを使って送信する(図1)。

 地震直後、KDDIでは音声通話で最大95%の通信規制を実施していた。通話全体の95%を切断してしまう措置である。加えて、通話発信が殺到している状況だった。そのため、ショートメッセージが届きにくくなっていた。KDDIの大内担当部長は「端末にある『新着メール問い合わせ』機能を使えば、メールサーバーに来ているメールを受信できたはず」と言う。

 NTTドコモの場合、「メールが殺到して、メールサーバーの一部で処理が追いつかなくなっていた」(広報部)。このほか一部の端末では「圏外」になるトラブルも生じていた。大量の端末が通話発信やメール送信をしようとしたため、端末の状態や発着信などを管理する制御信号が混雑してしまったのが原因だ。端末がどの基地局と接続しているかを管理する「位置登録」が正常に動作しなくなり、位置登録が失敗した端末は圏外になった。

 位置登録については、NTTドコモが6月6日に発生させた大規模な通信障害でも原因になった(関連記事:ドコモ13時間のネットワーク障害は「位置情報管理」システムの不具合が原因)。6月6日の通信障害ではサーバー側の不具合が問題だったが、同様の現象は災害時の制御信号の混雑でも発生する可能性があるということだ。